[コメント] ディープ・ブルー(2003/英=独)
『WATARIDORI』と似たような感じだが、あれと比べると演出の工夫が足りない。魚やイルカ、鯨など海洋生物を取り上げながらも、海そのものをとりあげたり、北極、南極から深海底、ホットスポットなどいろいろ取り上げている。
一口に「海」といっても、劇中語られているが「深海域に入った人間は宇宙を旅した人間よりも少ない」ように、広大な海においては、実はまだまだ未探査の部分が多く、次々と新たな発見もある。海洋生物の生態もまた然りである。それに、あまりにも馴染みのない世界だけに、ナレーションについて、多すぎるのはくどくなって逆効果だが、もう少し、解説などがあってもいいように思えた。
個々の点では、海中からまるでミサイルのように海面へ飛び出して上陸をするペンギンのシーンや、自在に形を変え、時にはバラバラになり、一つ一つの個体の集合でありながらも、一つの塊りのようにしか見えない小魚の群れには見とれてしまった。
また、子鯨にのしかかって、窒息させるというシャチの狩のシーンは凄まじかった。まるで水面に顔を押しつけている殺人のシーンのような錯覚さえ覚えた。
物足りなかったのは、深海底から熱水が噴出している「ホット・スポット」と呼ばれるところを取り上げたシーン。あそこは、「生命」という点ではもっともっと注目されてよいところだけに、通り一遍の紹介だけで終わったのは残念でもあるし、その扱いにこの映画の、ドキュメンタリーとしての弱点がよく現れているように思えた。
「ホット・スポット」は、生命という点から、また、深海底にしか存在せず非常に貴重な映像という意味からも、それだけで一つのテーマになるくらいのものである。そういうものをさらっとしか紹介せず、他のものと十把一からげにしているから、この映画の印象を薄めてしまっている。
製作者がこのドキュメンタリーで何を伝えようとしているのか、「大自然の驚異、美しさ」なのか、「生命の神秘」なのか、「生存競争の苛酷さ」なのか、「生命の躍動感」なのか、それがはっきりしないから、極論すれば「流行の癒し系映像」にしかなっていないのではないか。
TVの連続ドキュメンタリーで、大量の時間が使えるのなら、この回はこれ、となるだろうが、一回限りの限られた時間でドキュメンタリーとして、この映画を見るものに何を伝えるか、「映画」としてドキュメンタリーをつくるのならば、この点がもっとも大切な点ではないだろうか。
☆☆☆☆☆☆☆以下はオマケ☆☆☆☆☆☆☆
参考までに、深海域にある「ホット・スポット」について、私の知る限りで「生命」という点からみた重要性について。
「ホット・スポット」の発見は比較的新しい。そしてその周囲に生命体が発見されるまでは、この地球上にあるすべての「生命」は、根本のところで太陽からのエネルギーに依存している、太陽エネルギーによって成り立っている、とされていた。
地上では植物がまず、太陽エネルギーによって、自己の生命活動を維持し、その植物を食料とする草食動物、草食動物を食料とする肉食動物、という具合に分類される。海中では、植物の役割は、海草やそれ以上に存在している植物プランクトンが果たしている。
つまり太陽エネルギーによって生成される有機物から、地球上の全生命がエネルギーを得ている。もちろん、洞窟の中や太陽光も届かぬ深海底にも生命体があることは知られていたが、それらの生命体にしても、水流などによって運ばれてくる有機物で生命を維持しており、その有機物は太陽エネルギーで生成されたものの名残、などである。深海底でも、海底に沈んでいく死骸などによってそこに住む生命体は有機物を得ている。
ところが、この常識を覆したのが「ホット・スポット」の周囲で発見された「チューブ・ワーム」と呼ばれた生命体である。その生命体は、体内に共生させているある細菌がつくりだす有機物からエネルギーを得て生命活動維持している。そしてその細菌は、「ホット・スポット」から噴出している硫化水素をエネルギー源として、有機物を生成している。
噴出している硫化水素は地球という惑星内部から噴出しているのである。つまり「チューブ・ワーム」は、他の地球上の生命体と違い、太陽エネルギーに依拠せずに、地球そのものに依拠して生命活動を維持していることになる。
その生命起源までさかのぼれば太陽の存在は否定できないが、この地球上でほとんどの生命体が太陽エネルギーによっており、万が一、太陽エネルギーが地球に届かなくなれば生命を維持できないが、「ホット・スポット」周辺の生命系だけは、地球から供給されるエネルギーによって生きることができる。
つまりそれらの生命体は、我々とはまったく異なった生命体であり、正真正銘の「別世界の住人」なのだ。
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