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[コメント] ラブ・アクチュアリー(2003/英=米)

クリスマスに彩られた数々の愛の奇跡に「オレも恋してぇよ」感がブリブリと。だが、たったひとつのシーンに、スウィートでキュートなだけじゃないリチャード・カーティスの人間に対する視点を見る。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「一秒だけ待って」の彼女(超キュート!)が病院の弟と対峙する場面。まったく要領を得ない弟をなだめすかしているうち、イスに座ったままの弟が彼女を殴ろうとするシーンがある。慌てるドクターを尻目に彼女は、振り下ろされる弟の拳を難なくキャッチする。

 本当に難なく、パシッと。

 このシーンが描くのは、この姉弟の過去だ。彼女は、心を病んだ弟にこうして何度か、少なくとも2度や3度は、顔面を殴られたことがあるんだろう。そうでなければ、予備動作に入っただけの弟の拳をあんなに簡単に受け止められるはずはないのだ。

 映画の中で「肉親が心の病気」というシチュエーションを描くとき、多くの場合その「病人」はイノセンスで純粋な存在として登場し、「いつもニコニコ」という記号を与えられる。その存在が肉親の枷(かせ)になっているというだけで、充分に悲劇を演出できるからだ。だが、『ラブ・アクチュアリー』の彼はイノセンスで純粋な上に、凶暴な攻撃性を備えてスクリーンに現れた。彼は姉の仕事を徹底的に邪魔し、長年の片思いがついに成就した夜を台無しにするばかりか、その姉が見舞いにくれば顔面をブン殴るという、そういう病気の人間なのである。

 それでも、彼女の弟への愛は決して揺らぐことはない。もう「家族なら当然だろ」とかそんな言葉では全然片付けられない、めまいがするほどの強靭な「愛」を見せつけられる。

 このシーンで、『ラブ・アクチュアリー』は凡百のラブコメとは明らかに一線を画す作品として私の胸を打った。

 願わくば彼女も、きっと、きっとね、来年のクリスマスにはあの片思いの色男と結ばれてくれればいいなぁ、と。フィクションの中のお話なのに、たいそう切実にそう思ってしまった。

(評価:★4)

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