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[コメント] ガントレット(1977/米)

お菓子食べながらキャッキャ騒いで観る映画と思ったら、予想外に真顔、というか作家映画。偏執的な銃弾量。思考停止状態で撃ちまくる警官達は全体主義のゾンビのようで、笑いがいつしかおぞましさに変質する(過剰さの匙加減が巧い)。その中で貫かれるベタなロマンティックに信念が熱く滾る。熱いけど粗い。評価が難しい。
DSCH

**ネタバレ注意**
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現実主義的な立場から指摘されるであろう粗を度外視しても、撮りたいので撮られた画って、感動的な画が多いですよね。こういうところには信念と作家性があらわれる。

モーテルを蜂の巣にするシーンは、それまでのユーモア感も相俟って、「笑うところだよな」と思って観ていたが、あまりにそこに割かれた尺が長く、火薬量が半端ないので、「これは笑わせるつもりはないらしい」と思い始めた。映画の尺の魔術だと思う。普通の人間なら途中でやめるだろう。あの警官達は、「普通の人間」ではなくなっていることがわかる。

長官に加担している地方検事補を指して「ヒトラーも有罪に出来ない無能」と皮肉る序盤のくだりも踏まえて印象に残ったのは、長官をヒトラーになぞらえて、腐敗していようとなかろうと、「権威」と「銃」、「情報操作」のもつ催眠作用のおぞましい強力さを描いているということ。警官の一部には疑問視する声が上がるものの、その反発が広がって云々という描写はほとんどない。意識しない全体主義のグロテスク(ヘルメットとサングラスの没個性感が怖い)。ほとんどゾンビだ。「目覚め」を呼び掛ける信念のバス。しかし、目覚めた者が刑罰を受けるのが全体主義だ。悪夢から覚めて、まだ現実に戻りきれずに、貫かれた信念を前に呆然とする警官たち。かなりシリアスな描写だ。よくよく堕ちた正義というものが嫌いなのだろう。警官バッジへの無体な扱いなども「らしさ」を感じさせる。

セクハラ田舎警官との罵り合い、、ジェンダーにも言及するあたりにも作家の矜持がうかがえる。ま〜た格好つけやがってと思うが、これでいいと思う(暴走族に「あの人ハンサムね」と言わせるところは苦笑しました。思いついても普通の人だったらやりませんよ ね。やっぱり普通の人じゃないのでしょう)。

ただ、言いたいことはわかるけど、カーチェイス等アクションシーンの快楽リズムはもう少しどうにかなっただろうと思う。救急車で蛇行するシーンなど、もっと笑わせるか危機感を徹底させるかはっきりさせれば、より面白いはず。ヘリとのチェイスも「何?今の」と何回か首を傾げた。御大とロックの、序盤のユーモラスな罵り合い(自己紹介の件や「撃て」という無茶ぶりが傑作)をもっと観たかったというのもある。後半にもユーモアの配分をもうちょっと傾けて、状況を笑い飛ばす冗談の応酬があってもいい(ママに電話する件はいい)。罵り合いは罵り合いで保ちつつ、その中身を微笑ましい心情へ変質させていくほうが、この二人らしい交歓になったのでは。(起き上がるシーンの悪態くらいじゃ足りないよ)長官も殺さないで、むっくり起き上がって、二人で仲よくビンタ喰らわして罵声の嵐とか。

最後の晩餐にステーキとフライドチキンとワイン、っていうセンスは笑った。本気なのか冗談なのか分からなくて、どっちにしても面白い。あの顔だからいっそう面白い。裸で準備万端なのになにもしないのも面白い(決死戦だけど二人で生還することを確信している、って解釈でいいのかな?)。

(以下、何と『トゥモローワールド』のネタバレ)

※ 余談ですが、ラストの整列→乱射→静寂(「撃ち方、やめ!」)のシーンで思い出したのは、『トゥモローワールド』のラストシーンでした。精神は似ていたように思います。しかし、あちらは静寂からあたかも「目が覚めたかのように」乱射に戻ります。これが悲しく、怖いんですよね。

(評価:★3)

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