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[コメント] 白痴(1951/日)

こんな支離滅裂な形でしか残存していないことを心から嘆く。もし”完全版”が現存したとしたら、きっと世界史に残るような大傑作だったに違いない・・・と勝手に想像している。黒澤渾身の演出の数々。
緑雨

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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カメラワーク。導入部で、飾られた妙子の写真を覗き込みウィンドウに映った二人が会話するカット(ここで流れるBGMの哀切さも良い)。大野の家での階段・扉を駆使した大胆な構図。アップの使い方も効果的且つ物凄く迫力がある。

暖炉や、汽車の吐き出す煙や、カーテンや、蝋燭など小道具を生かした演出。そして、雪、雪、雪。

音楽もなかなか印象的で、妙子と赤間が、亀田と綾子を待ち受けるシーンで流れるオルゴールの音色("Danube Waves")がまた良い。

何より仮装アイススケートのシーンが凄い。この時代の日本映画で、あんなにモダン且つアーティスティックなシーンが他にあり得るだろうか?

もちろん森も三船も良いのだが、何より原節子。美しいだけでなく、あの存在感。初めて香山家を訪ねてきて、玄関に亀田が迎えに出た場面、あのハッとするような迫力は言葉にできない。『わが青春に悔なし』でもそうだったが、黒澤作品での彼女は、小津や成瀬のそれとは全く異なり、個人的にはもっとも魅力的に感じる(因みに本作は、小津の『麦秋』、成瀬の『めし』と同年の制作)。

ストーリーについては言っても仕方がないが、これだけ力のある画面が連続していながら、この支離滅裂さから後半になるにつれ観るのが苦しくなってくるのは誠に残念。特に東山千栄子のコメディエンヌぶりが作風の中で違和感があり、存在せぬ”完全版”においてはどのような位置付けだったのか、非常に気になる。

(評価:★4)

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