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[コメント] もののけ姫(1997/日)

もののけ姫』が、思想において『風の谷のナウシカ』を凌駕してしまったことで喪ってしまったナウシカの心。
kiona

はたちの頃に、弟のように可愛がっていた猫を喪った。彼は生まれたときから内臓を患っていて、三年しか生きることができなかった。せめて彼の骸が新たな命の苗床となるように、庭の片隅に埋め、その上に、彼の体毛と同じ色の花を咲かせる花見月の若木を植えた。でも、その木は枯れてしまった。想いは挫かれた。何故なのか、ずっと解らなかった。

最近になって、植林に詳しい人に教えられた。その人曰く「それをやったら、絶対に枯れる。強すぎる肥料は、木の側にまかず、少し離れた場所にまかねばならない」……彼は強すぎる肥料だったのだ。そして、これを聞いたとき、初めて「命を与えもするが、奪いもする」獅子神の深淵を理解した。言葉で説明することなどできないが、感覚で理解した。

もののけ姫』の思想は深い。でも、映画の中に、生きては死んでいくあまたの登場生物たちに、彼を喪ったときの悲しみ、彼が宿るはずの花見月が枯れてしまったときの哀しみを見ることは最後までなかった。それは安っぽいセンチメンタリズムに過ぎないのかも知れない。でも、宮崎駿は、『風の谷のナウシカ』では、それを捨てられずにいた。

宙づりにされ血を流す王蟲の子とその姿に張り裂けるナウシカにこそ、この胸も鷲掴みにされた。出会った命が、たった一つの命が傷つき死んでいくことに埋没してしまいそうになるような柔な監督だったからこそ、好きだった。それを凌駕せざるを得なかった思想の深淵を理解しつつも、凌駕してしまったこの映画を愛する気にはなれない。

(評価:★3)

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