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[コメント] パルプ・フィクション(1994/米)

気恥ずかしいですが、、今生きている監督の中ではやっぱりタランティーノが一番好きです。レビューは、キャラクターの特質について、またジュールスの台詞に関する訂正と追記。。
kiona

 『ゴッド・ファーザー』、『グッド・フェローズ』、『仁義なき戦い』、『英雄本色』、これらの中に『レザボア・ドッグス』と『パルプ・フィクション』を入れてみる。後者のタランティーノ二作品は前者四作品を凌駕することはないが、かといって飲み込まれることもない。異物として油のように浮かんでくる。何故か?

 タランティーノが描いた人物達がヤクザでもマフィアでもなく、純然たるチンピラだからだ。

 『ゴッド・ファーザー』は組織を背負った者の葛藤を描いている。『ゴッド・ファーザー』が組織内の中心なら、『グッド・フェローズ』は組織内の周辺が織りなす七転八倒を描いている。『仁義なき戦い』は組織からはみ出す者の戦いを描いている。『男達の挽歌』は組織に復讐する者たちのドンパチを描いている。組織の中における孤独や組織からの孤立を描いてはいても、組織への忠誠という大前提があっての話なのだ。それがある故に、彼らはヤクザたり、マフィアたりえた。

 ところがタランティーノが描くチンピラたちに、組織への体質的な忠誠は皆無だ。同じように裏切るとしても、彼らは組織との間に感覚的葛藤を持たない。尻尾を巻いて逃げるピンク、ホシと擬似的な父子関係になってしまう囮捜査官、彼への親心からボスを裏切るホワイト、ベガ兄弟弟の変質者ぶり、いけないと思いつつボスの奥さんと危ない関係となるヴィンセント・ベガ、神の啓示を受けたと言って組織をやめると言い出すジュールス、ボスの面を汚してトンズラ決め込むブッチ、その殺そうとしていたブッチに思いもよらず助けられ仁義を感じ逃がしてやるマーセルス。

 堅い忠誠心として感覚的に染みついた“自分<組織”という絶対不等号の上で葛藤するヤクザ、マフィアに対し、タランティーノ作品の登場人物達は、理性の上では“自分<組織”だとしても、感覚的にはどうにもこうにも“組織<自分”なのである。…困ったヤツらだ。どこまで行ってもチンピラ風情。チンピラでしかないが故に、彼らは純然たる「個人主義者」なのだ。タランティーノの映画の何処に惹かれるって、自分は此処に惹かれる。

 ※訂正&追記(2003-10-30)※

 前回のレビューで、『レザボア・ドッグス』の冒頭・ライク・ア・ヴァージンをめぐる与太話には、「現実をそのまま描けばそれでいいのか? 映画は正しいことを言うかどうかじゃない、説得力のある嘘をつけるかどうかだ!」という監督タランティーノの宣戦布告が込められているに違いないと書いた。不勉強なことに『キル・ビル』関連でつい最近知ったのだが、『パルプ・フィクション』でジュールスがエゼキエル書25章17章からの引用だとのたまわった文句も、旧約聖書の何処を探しても見つからない。それもそのはず、あれも聖書の引用だというのは大嘘で、本当はサニー千葉こと千葉新一の作品に出てくる台詞とのことでした。まんまと騙されたまま、えらく鼻息の荒いレビューで嘘八百の論を展開していたなんて、本当にお恥ずかしい限りだ。

 引用がインチキだと知って、ますますあのシーンが好きになった。負け惜しみになるが、あの台詞が聖書の文句だと勘違いした人は他にもいたと思う。本当にそれらしく聞こえた。なまじ本物を引用してきて展開するより凄くないだろうか? 大嘘の聖書の引用と緊迫度満点の状況設定、そして役者の演技、シャレとマジの境界が神懸かっていて解釈に戸惑う。タランティーノは現実から映画を作ろうとしない。映画から映画を作る。他の作家が現実からネタを拾ってくるように、映画からネタを拾ってくる。他の作家が現実を信じているように、映画を信じている。それを「パクリ」だの、「オマージュ」だの、「映画への愛」だので片付けることに興味はない。だって俺は目の当たりにしているのだ――俗に言うB級作品から拾われてきた文句が、旧約聖書の引用に化け、まったく別のシーンで、まったく別のキャラクターから、まったく別の文脈で発せられ、まったく新たな言葉を紡ぎだし、しょうもない悪党同志が相克の果てに懺悔と贖罪に辿り着くなんて震える物語を展開しながら、スクリーンのこちら側にまで訴えかけてくる、なおもどこかで信仰の真実を匂わせながら……これほど巧妙な錬金術を、どれほどの作家が現実から行えているというのか?

 あの台詞は、タランティーノが信じる「聖書」の言葉でなくて何だというのか?

(評価:★5)

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