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[コメント] パンズ・ラビリンス(2006/メキシコ=スペイン)

苦痛に満ちた世界の傍らに寄り添う、グロテスクなファンタジー。現実と乖離するのではなく、あくまで現実世界の一側面を写し出す鏡として成り立つのが、ファンタジー(お伽話)本来のあるべき姿なのではないだろうか。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







例えば、世知辛い世の中だからせめて楽しい夢を、といった類のものではなく、争いに満ちた世界の片隅で、ふと萎れていく花を見つけ、そこから物語を紡ぎだしていく類のもの。お伽話と絵空事は別物なのではないだろうか。いや、別物であって欲しい、と個人的には思う。

そういった意味では、現実の中でのファンタジーの立ち位置というものに意識的な作品に思えた。ただ、そのまま子供に見聞きさせるファンタジーではなく、ファンタジーについての映画、ファンタジーが現実において果たす役割についての映画、と言えばいいのか。そういった意味では、結末も個人的には至極真っ当なものとして、すんなり受け容れられた。

女の子の死という悲劇の後に、少しずつ息を吹き返す木。彼女の死の意味を汲み取ることで、そこにお伽話という名の小さな火が生まれ、そして世代から世代へと、ある種の希望を込めて受け継がれていく。彼女はそのお伽話の主人公としての資格を得た、ということなのだろう。

ただ少し安直に思えるのは、苦痛に満ちた現実の「苦痛」というものを、直截的な痛みの描写に頼り過ぎていること。確かに内戦という背景なだけに、そういう描写もある程度の説得力を持っているのかもしれない。しかしこの映画に関しては、むしろ現実世界のパートのそういった直接視覚や痛覚に訴える描写を抑えた方が、お伽話世界の視覚的なダークさ、グロテスクさが、より明確なコントラストを発揮し得たのではないだろうか、と思う。まあ、ただの監督の趣味なんだろうけど。

(評価:★4)

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