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[コメント] サウルの息子(2015/ハンガリー)

祝!オスカー受賞。暗いし、重いし、楽しい要素なんて一つもないし、それでもこの映画に出会えてよかったと思います。
プロキオン14

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「祝」という言葉の、まったくもって似合わない映画です。

ずっとサウルの「背中の×字」をカメラは追う。時折顔が映るが、とくに表情に変化があるわけでもない。サウルの背後に写るものは、焦点のぼやけた虐殺。音だって、悲鳴と重たい扉のしまる音。燃える炎、銃声、時々の会話。

次々と送られてくる同胞たちを、次々と「処理」する「ゾンダーコマンド」たち。その姿は「淡々」としていて、そのなかに「感情」は見えてこない。いや、感情を出していたらやってゆけないんだと、彼らも、見ている私たちも理解している。

そしてサウルの「息子」。これは本当の息子なのか?「息子はいない」と言われていたし、「妻が産んだ子供ではない」ともいっていたし、どっちなんだろう?ということもはっきりとされてはいない。きっと「どちらにしても、変わりはない」んだろう。

それでも「息子」が一旦は生き残りながらも、目の前で絶命しているのを見送った。このときの心中は計り知れない。そしてその亡骸を、ちゃんと「人間らしく、ユダヤ人らしく」弔うということに、サウルは奔走する。感情を出さずに働いてきたゾンダーコマンドとしての行動から、表向きは感情を露わにしていないが、「必死になって、必死になって」、サウルは奔走する。奔走する事で「自分が生きている意味」を具現化しようとするかのごとく。

そして、ゾンダーコマンド自体に死の恐怖が忍び寄る。そして突然の銃撃戦。「あやしいラビ(本物?偽物?)」と一緒に逃亡する。息子を抱えながら、川で流されて、亡骸と離れ離れになってしまう。最後の小屋で、どこかの少年を見つけて、ほんの少しだけ、ほほ笑む。それまでずっと見ている我々も堪えてきたが、その瞬間だけ至福を感じたんだ。そしてその直後に・・・・・・。

あぁ、いろんな映画を見て来た。いろんな戦争映画も見て来た。ホロコーストを題材にした映画も見て来た。でもこの映画が一番「切ない」。悲しいのではなく「切ない」。その違いをうまく言葉にはできないが、切ないんです。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ロープブレーク[*] 水那岐[*]

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