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[コメント] 聖地には蜘蛛が巣を張る(2022/デンマーク=独=スウェーデン=仏)

因習への反抗心を誇示するようにヘジャブから前髪をのぞかせて、男たちが作り上げた強固なカラをこじ開けるように「夜の聖地」の裏側を奔走するライミ(ザーラ・アミール・エブラヒミ)のなんと凛々しいこと。てっきりイラン映画だと思い込んで観始めたので・・・
ぽんしゅう

冒頭から女性の裸身が映し出されたのには驚きました。

作者のアリ・アッバシ監督はイラン出身でデンマークが拠点ということで本作は欧州映画だったんですね。どうりで、ここまでムスリム女性の"性"を直截的に描写した作品は初めて観た気がします。本作はイスラム教に基づいた女性差別問題の切実さを担保しながら、連続娼婦殺人というエンターテインメントサスペンスを志向したことで、いま世界中に蔓延している「狭隘な正義感」が生む暴力の正当化という問題にまでの間口を広げることに成功しています。

たとえば信念の殺人者である犯人とその息子の関係には、白人至上主義の負の連鎖を描いたガイ・ナティーヴ監督の『SKIN 短編』と同様の恐怖を感じました。そして、聖地の夜を汚す売春婦に嫌悪を抱くイランの大衆のヒステリックな姿に、私はコロナ禍のもと性風俗事業者が支援金の給付対象から外された日本社会にも潜在する同根の"偏見と不寛容"がだぶりました。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)ひゅうちゃん プロキオン14 けにろん[*] ペンクロフ[*] jollyjoker[*]

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