[コメント] ライムライト(1952/米)
幾つかの印象的なシーンがあるんですが、光と影、テリーがバレリーナとして採用されるシーン。カルベロはずーっと照明の消えた舞台の椅子で座って待っている。テリーがそこに戻ってくる。テリーは一瞬その暗さに目が慣れていない。カルベロが見えないんですね。そしてやっとカルベロを見つけて近づくシーン。彼女の影がぐーっと大きくなります。力を取り戻したテリーがスターになることと、カルベロが次第に老いて、力を失うというシーンがいいですね。老いと若さ、その対比。チャップリンは覚悟してこの映画を撮ったんですね。
もうひとつ、テリーがやっと舞台に立つ直前、舞台裏、舞台のそでで彼女の足がすくんで「出られない」と再び自信を失いそうになるシーン。道化師姿のカルベロは思い切り彼女をはたきます。ぶん殴るというほどの勢いで、テリーは吹っ飛ばされます。それで我に返ったテリーは見事に踊り始めます。カルベロはその姿を一目見たくて、舞台の上に登るんですが、テリーの踊っている姿が一瞬しか見えない、もう届かない存在になってしまったんですね。
これらのわずかなシーンに、痛み入ります。
淀川長治さんがこの映画の撮影を見に行った時のエピソードはあまりにも有名です。「時間は偉大な作家ですね」(Time is great auther)というシーンを何度も何度も繰り返し、OKシーンでスタジオ中のスタッフに自慢するように確認した。そのシーンの声、表情、色々考えます。
淀川さんは数十年ぶりにチャップリンと再会。この間に流れる時間。年老いたチャップリンの灰色の髪。スタジオのセット。照明。それらが淀川さんの心に強く流れて思わず涙した、というエピソードです。チャップリンはそんな淀川さんを優しく抱擁してくれたそうです。
クレア・ブルームがきれいだった。こんな健気な女優は見たことがありません。全編彼女の美しさが光る映画でした。
バスター・キートンも見事な脇役だった。あのチャップリンとキートンが共演している姿というのは、映画を長く見ている人にはたまらないものがありますよね。もしかしたら、ほかの映画監督が同じ映画を作ったら、このシーンはカットされていたかもしれませんね。チャップリンはキートンのサイレントのパントマイムの素晴らしいシーンを演じます。このシーン、映画でもクライマックスですが、彼ら二人にとっても人生のクライマックスとなるシーンだったかもしれませんね。
東宝東和のビバ・チャップリンシリーズをすべて見て、チャップリンの、というよりも映画の虜になった私としては、一生大切にしたい作品ですね。
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