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[コメント] ウィンチェスター銃’73(1950/米)

ジェームズ・スチュアートの、かすかな風のそよぎを感じたのか感じなかったのかを確かめるかのようにそばだてられた耳もとを、西部劇史上最も完成度の高い銃声が擦過する瞬間、観客は極上の臨場感を貪りながら戦いの行方知りたさに手の汗を握っている。これ以上何が要る?
ジェリー

昨今流行のポンポンという小ぶりで乾いたリアルを装った銃声にはない、倍音とビブラートをたっぷり含んだ果実のようにみずみずしい発砲音こそ、この映画全体を貫く太い官能のつなぎ紐であろう。

標題の名銃に様々なエピソード、様々な人物が結び付けられていく説話上の工夫は工夫としてそれは良い出来であるが、それ以上にこの映画で重要な美質は終始鳴り響く銃声の高いレベルの完成度と一貫性にあるように思う。映画は、特に劇映画は、目の快楽と耳の至福以外の何者でもない。ストーリーの賞味はそこから派生する二次的なものである、と言い切ってしまおう。

稜線と空とが強いコントラストを刻む凹凸激しい真昼の荒地。ざらっとした質感の曇天の光にじむ朝の野営地。幼児が戯れる暖色の柔らかい光あふれる夜の屋内。要するに時と所変わればそこを満たす光の質も変わることが一目で判別できるだけでもそれは得がたい白黒映画体験なのだが、そこに馬が縦横に走りこみ、きわめて官能的な音が加わることだけでこの映画は名画なのだ。演技は‥‥俳優は‥‥‥いや、面倒だ。もうこれで十分だ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)モノリス砥石[*] ゑぎ ぽんしゅう[*] 3819695[*]

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