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[コメント] ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS(2003/日)

見事なまでの完結。これほどまでに過去作品に対するオマージュをしておきながら全く無駄にしない、という稀有な例。
荒馬大介

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ……いやはや、劇場で目頭熱くするなんて思わなかった。それについては後で触れるとして、まずは話について。

 今回の登場人物は3つのパターンに分けられる。「1:機龍を人類の希望とする人」「2:モスラを人類の希望とする人」「3:機龍を捨ててモスラを人類の希望にしようと企む人」、大体こんな感じだろう。このうち「3」はこう解釈出来る。モスラを希望だと奉り上げるのはともかく、全てを託し人類の盾にするという何とも勝手な考えである。すなわちゴジラという問題を直視せず、問題を丸投げしようとする人間の身勝手さ、弱さを体現しているのだろう。機龍が出撃した時のあの苦虫を潰したような顔を観て、『生きる』の志村喬の葬式にやって来た市議会議員を思い出してしまった。

 さて残るは1と2だが、この両者、全く意見が食い違っており、モスラサイドは機龍の放棄を希望しているにもかかわらず、ほとんど対立をしていない。「最悪の場合はモスラは人類を敵とみなすかもしれない」と小美人は言うが、モスラと機龍が戦う場面は無い。あえていうなら小泉博と中尾彬くらいである。では小美人の言ったことはハッタリか? いやそうではない。「人類がゴジラの骨から機龍を作り出したこと」が間違いだというが、だとすると……。

 そこでこう解釈した。モスラサイドにとって、機龍を放棄して欲しい理由はかなり複合的なものなのだ。まず「死者を蘇らせたこと」。人類としてはただ単に、ゴジラの骨をベースにボディーを作りDNAを利用してコンピューターを作動させているロボットを作っただけだと考えているかもしれないが、果たしてこれは本当に「機械」なのか? ゴジラを半ば蘇らせたことに当てはまってはいないか、生命の摂理に反してはいないか、という警告だ。

 次に「機龍の存在自体がゴジラを呼びかねないこと」。今までの事例からしても、骨をサルベージしたり、機龍を起動させた直後にゴジラの出現がある。つまり、対巨大生物兵器となるべきものが、いつのまにか誘引剤になっていることなのだ。これはモスラだけに限らず映画の中のマスコミも突っ込んでいたことだが、人類側はあくまで「可能性がある」の推測止まり。小美人達はその辺を見抜いていたのかもしれない。

 そして最後だが、「機龍の立場が人類の間でも曖昧になってしまったこと」。死者を蘇らせた上にその存在がゴジラを呼ぶという危険性を秘めた機龍に対し、小美人達はもっと早く警告しても良かったはずだ。にもかかわらず現われなかったのは、機龍がまだ「人類の希望」として存在していたからである。小美人達は、ゴジラに対する人類の勇気を一概に否定してはいない。最初の戦いで機龍がゴジラと共に海の中で相殺するという結末を迎えていたのなら、モスラサイドが望む通り再びゴジラの骨は海に戻ったことになるが、そうはならなかった。

 両者傷付き生き残ったが為に、機龍はその存在を否定され始める。死してなお人類の意思によって蘇らせられ、自らを察知してやって来た同族と戦わされ、なのにその存在が人類全てから望まれるものではなくなった機龍。そんな人類の思惑に翻弄されるという初代ゴジラの骨が、どうしたら浮かばれようか? そもそも初代ゴジラという生物自体、人類側の核実験の影響で生まれたというのに。小美人達は、人類に運命を翻弄されてばかりいるゴジラを、その呪縛から解放してやりたいと願ったのだ。

 その決断をしたのは、他でもない、機龍自身だった。

 機龍の猛攻で動きを止める寸前のゴジラは咆哮し、再び機龍に暴走の危機が訪れる。その時、気絶した弾みで機龍とシンクロしたことで、小美人達の本位に気付いた義人は泣き崩れる。「俺はお前のことをちっとも分かっていなかったんだ」。だが、義人を始め、前作での茜、そして自分を取り巻く人間達の想いを、機龍は全て受け止めていたのだ。そこへ流れてくる小美人達の歌。「人間は、自らの過ちに気が付かないほど愚かではない筈です……」。全ての想いを受け取めた機龍は、人類が決断するよりも前に、ゴジラと運命を共にせんとする決意を固めていたのだ。そう、機龍はついに「意思」を持ったのだ。義人に向けた最後の言葉「SAYONARA」。確かに、人類はゴジラを翻弄させた。だが、機龍を人類の希望だと純粋に信じる人もいる。その代表が他ならぬ義人だ。最後までそばにいてくれた彼に対する、感謝の言葉。真の希望は、その彼の想いの中にこそある……。

 ……以上、つらつらと書いてまいりましたが、いやはや熱い熱い。ちなみに最初に書いた「劇場で目頭まで熱くして……」というのはどこかというと、モスラがらみ。中条博士の「私は、夢を見てるんじゃないだろうか!」と、彼の孫が紋章を作ったところへモスラが馳せ参じたシーンに、もう思わずグッと来るものがありました。しかも中条博士、ちゃんと話の最後まで登場して、締めの言葉まで言ってくれます。よくぞ作った!

 おまけとして、「この元ネタはこれだろう」を書き出してみました。

・『モスラ』……オープニングでF15と戦うモスラ(劇中では描かれなかったロリシカ空軍との戦いはこんなだったのでは?)/中条博士が顔を本で隠しながらの登場/岩場にある卵を下から見上げるアングル/小美人が挨拶の時に膝をちょっと曲げる仕草/

・『モスラ対ゴジラ』……モスラが山の上にいる/卵から2匹生まれる/眼に赤と青がある/成虫ならびに幼虫モスラの戦い方(燐粉を使う・引きずる・尻尾に食らい付く・陰に隠れながら糸を浴びせかける・最後ゴジラは簀巻き状態)/主人公が小美人の導きに付いていく/

・『メカゴジラの逆襲』……機龍のボディーが微妙に黒ずんでいる/ドックで修繕されている時に何本ものコードが接続されている/前作よりも手先が尖っている/

 ……うーむ、まだありそうだな。しかし『メカゴジラの逆襲』で書いた通り、ミレニアムで復活したゴジラがホントに最後「生き写し」と戦うことになるとはね……。我ながら、予想が当たって驚いてます。来年はどうなるのかなぁ。

(評価:★5)

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