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[コメント] クレイマー、クレイマー(1979/米)

見事な「演出」の映画。
ナム太郎

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この作品、お話がお話だけに、公開当時からやれジョアンナがどうだ、テッドがどうだというコメントは山ほど見てきたわけだが、自分はどちらかというとそんなものはどうでもよく、観る回数を重ねるごとに「演出家」としてのロバート・ベントンの仕事ぶりの素晴らしさに感動してしまうのである。

例えば冒頭のシチュエーションでジョアンナ(メリル・ストリープ)が家出のための荷物をまとめているところにテッド(ダスティン・ホフマン)が帰宅するわけだが、妻の第一声を聞く以前にまず会社に電話をさせるというワンクッションが巧い。そんな彼の行動が悩みぬいた妻の決断を声として出しやすくする。妻からの思いもかけぬ一言に驚きを隠せぬテッド。しかしそんな彼の思いとは裏腹に妻の口から出るのはただ「別れる」という決断のみである。興奮し、大きな声をあげる妻に対し夫はおそらく近所迷惑になるからということで声を低くするよう彼女を促す。しかし彼女のテンションは一向に変わらない。というのも彼女は、長年住み続けたそのアパートが、何があろうと近隣住民との関わりなど一切ない孤島の砦であるということを知っているからである。こうして彼女は1人エレベーターで去っていく。しかし妻の行動を一時的な気もちの変化程度にしか思っていない夫は彼女を追いかけようともしない。そして妻の友人に電話するのだが、ここでも電話をかけるのはただの1軒。ここからも妻の閉塞的な人間関係がわかる。

こういった「演出」の妙は、言葉に表すとただこれだけのものだが、これらが画の中で簡潔明瞭に示されるのはやはり快感である。また中盤の子どものケガのシーンは細かなカットによるサスペンスフルな演出が施されているし、そののち子どもを抱いて車道を横断するテッドの行動なども活劇的な魅力にあふれるカットである。そして最後はまたエレベーター。ここまでくるともう降参するしかない、これは見事な「演出」の映画である。

***

あとになって気づいたのだが、ここで使われている印象的な音楽は先にトリュフォーの『野性の少年』でも使われていたものである。この作品は言うまでもなくトリュフォーアルメンドロスとが最初にタッグを組んだ作品であるが、自分とアルメンドロスとの最初の作品でこの曲を使い、彼らへの敬意を表したなどというのは考えすぎだろうか。

(評価:★5)

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