[コメント] イングリッシュ・ペイシェント(1996/米)
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戦争を経糸に、戦争でなかったらそこにいるはずもなく、会うこともなかった人々によって織り出される人間模様が本当に丁寧に描かれていて、一反の織物をじっくりと眺めているよう。
アルマシー(レイフ・ファインズ)と、キャサリン(クリスティン・スコット・トーマス)の恋が、典型的にチープで不毛な不倫の一パタンだけに、その機微が、実に分かりやすい。 ああ、それなのに、アルマシー、キャサリン、ジェフリー(コリン・ファース)の運命を決定的にしてしまった。 そればかりでなく、周囲の人たちの運命までもが微妙に狂わされてしまうとは。 だから、瓦礫のなかから、ひっそりと、育っていくハナ(ジュリエット・ビノシュ)とキップ(ナヴィーン・アンドリュース)の愛がより爽やかで、未来へのかすかな希望を思わせるのかもしれない。
ハナによって、手厚い看護を受ける最期の夢のような日々。そして、カラバッジオ(ウィレム・デフォー)の言葉により、ついに、すべての記憶を取り戻したものの、自分の業の深さにおののき、何年も前に自分は死んだはずだったのだと自覚するしかなかった哀れなアルマシー。残ったモルヒネのビンを転がして、全部注射しておくれと、彼が目で訴えるシーン。完璧だった。
そしてもう一つ。コリン・ファースの役柄は、愛らしい役柄ではなかったけど、愛情、狼狽、疑惑、混乱、憎しみ、そして狂気があざやかに映し出される彼の目に見入ってしまったことはいうまでもない(照レ笑)。
観るたびに作り手達のモノ造り(あまり適切な言葉じゃないかもしれないが)に対する情熱のほとばしるさまが、増幅されて感じられるように思う。 キャストもすごかったが、脚本も音楽もロケーションも、照明も、さまざまな道具達も、本当に素晴らしかった。これらのひとつひとつが、ほぼ完璧に釣合っていると思う。ねらって出来ることの範囲を超えて出来あがっている映画のひとつと思う。
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