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[コメント] 男はつらいよ 寅次郎春の夢(1979/日)

久しぶりに再見したが初公開時の印象と違わずとても楽しめた。ハーブ・エデルマンは夢のシーンから実によくやっていて嬉しくなるし、寅の茶目っ気と侠気のバランスもいいし、吉田義夫岡本茉莉(二人は準レギュラー)の「蝶々夫人」、そして、そして、さくらの白いストッキング!とにかく、いゝシーンが沢山ある。
ゑぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 シリーズの中で最も愛着のあるものの一本で山田洋次の演出の冴えが随所に感じられる作品。(と、とりあえず云っておく。)例えば『夕焼け小焼け』のようないかにもストーリとしてのまとまりを巧くつけた映画を最上とする人もいるし、ストーリなんてどうでもよくて本作のような演技・演出の細部の懲りようを好ましく思う人もいるし、両方を好きな人もいる訳で、いろんな映画ファンが共存しているからこそ世の中は面白いと思うのです。

 さて、倍賞千恵子の白いハイソックス姿は『柴又慕情』『葛飾立志篇』『寅次郎頑張れ!』等シリーズ中期の多くの作品で見ることが出来るのだが、これらは膝上ギリギリのスカート丈の膝下ギリギリ迄を隠すものだ。(つまり、ギリギリ肌が露出する。)私はこのいつもの白いハイソックス姿でさえシリーズ中期(さくらが中年にさし掛かった時期)における「さくら」の「聖性」をシンボライズするものだと思っている。換言すれば、さくらの「性」を隠蔽するのが白いハイソックス。しかし私のような(いや実は多くの方がそうかもしれないが)倒錯した嗜好を面白がる人間にとっては(と控えめに云っておくが)逆説的にこの白いハイソックスがとてもエロティックでたまらなかったりするのだ。

 そして本作のハイライト「I love you」「Impossible..This is impossible..」のシーンである。このシーンの彼女は膝下丈のスカートに白いストッキングで全く肌を露出しないのである。勿論、このようなシチュエーションだからこそ、白いストッキングによっていつも以上に「さくら」の「聖性」を強調している訳で山田洋次の倫理観を表出した、ま、判りやすい演出なのだが、しかしこのように隠せば隠すほど、山田洋次が意図する効果とは逆にさくらの「性」が浮き彫りになって来るように私は思う。

 また、このシーンの後、さくらから「事の次第」を聞いた寅が全然騒ぎ立てずに寧ろマイコを慰めるという演出が寅の男気を際立たせて良いです。あと、寅らしい茶目っ気のあるシーンとしてマイコに梅干を食べさせるくだりがシリーズ中でも忘れられない名シーン。スキップしながらトラ屋を出て行く寅の姿がとても可愛い。

 夢のシーンから全力で熱演しているマイコ(マイケル)役のハーブ・エデルマン。実を云うと私もこの俳優のことを知ったのは本作を公開時に見た時からなのだが、その後、過去のアメリカ映画の脇役として彼を発見するのが楽しみになっていった。このことも本作に愛着を感じる大きな理由だ。『裸足で散歩』、『おかしな二人』、『フロント・ページ』、『ザ・ヤクザ』等々。中でも日本を舞台にしたレナード・シュレーダー原作の『ザ・ヤクザ』では結構重要な役柄を演じており、本作にキャスティングされるキッカケとなったのだろう。彼の死亡記事を見てから1ヶ月もせぬうちに後を追うように渥美清も他界したはずで、渥美の死が余計にショックに感じられたことを思い出す。

(評価:★4)

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