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[コメント] ベイビー・ブローカー(2022/韓国)

真実』に続いて外国の主要スタフキャストの中で作り上げ、しかも、なかなか良い出来なのだから、この仕事ぶりは大したものだと素直に感心する。
ゑぎ

 私はてっきり、サンヒョン−ソン・ガンホとドンス−カン・ドンウォンのキャラクターは、もう少し悪人要素があるのだろうと思っていたのだが、そうじゃない、という点も是枝らしいだろう。逆に云うと、この二人にもう少し毒気があっても面白かったと思う。

 さて、雨の夜の坂道の場面から始まる。画面の特徴として「雨や水」及び「坂や階段」が何度も出て来る映画だ。雨の夜の場面は複数回あるし、窓から手を出して、雨垂れを受けるショット。あるいは、幸福感溢れる洗車場のシーン。坂だと、バス停前でカン・ドンウォンが、ソヨン−IU(イ・ジウン)に声をかける場面(クリーニング店に連れて行く直前)が坂を横から撮ったショット。皆が乗る車を警察が停めるシーンも、坂の途中といった具合だ。特に冒頭の雨と階段は、本作の撮影者(『パラサイト 半地下の家族』のホン・ギョンピョ)のために用意した舞台だろうか、と思いながら見た。

 先に良いと感じた部分をもう少し上げると、まず、赤ちゃんの眉毛に関するやりとりが楽しい。最初の取引相手に、切れて食ってかかるイ・ジウンの見せ場も導く。取引の描写では、次の警察(ペ・ドゥナイ・ジュヨン)が用意した取引相手に、カン・ドンウォンが不妊治療の細かい質問をし、答えられないとみると、すぐに取引を中止するという、ペ・ドゥナのミタメの俯瞰で描かれる場面もいい。カン・ドンウォンは転売目的だと見抜いたと云う。これにより、彼らは金銭目的だけではないと、観客が明確に認識できる場面だ。赤ちゃんの幸せのことを考えているのだと。ちなみに、この場面の取引相手の奥さん役は、『はちどり』で漢文塾の先生をやった、キム・セビョクじゃないか。このゲスト出演には吃驚した。

 また、中盤でいきなり殺人事件の捜査場面がクロスカッティングされるが、この捜査の導入部で、ケーブルカーのある港湾都市だと分かるショットが挿入されるのだ。これにより、イ・ジウンの出身地(麗水・ヨス)であることがさりげなく示されるという見せ方には唸った。そして、心あたたまる場面がいくつかあるが、上にも書いた洗車場のシーンの他に、観覧車の中のソン・ガンホと少年の場面や、高速鉄道の列車の中で、名前の意味に関してイ・ジウンと少年が会話するシーンなんかもあげられるだろう。しかし何と云っても、「生まれてきてくれてありがとう」のシーンが、全編中でもハイライトじゃないだろうか。

 尚、全体的な感想として詰め込みすぎの感覚も持つ。もう少しシンプルな構造にして、画面を強くした方が良かったんじゃないかと思ったのだ。例えば、殺人事件における被害者の男の妻や、ヤクザが絡む部分は、ほとんど不要ではないか。プロットを複雑化しているだけだと思う。ソン・ガンホと娘との会食シーンも同様に要らないと感じる。この娘は可愛いかったけれど。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)緑雨[*] ペペロンチーノ[*] けにろん[*] おーい粗茶[*] シーチキン[*]

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