[コメント] ドライブ・マイ・カー(2021/日)
また、赤いサーブを運転する三浦に、西島が煙草をくわえさせ、ライターで火をつける、というシーンも。そう、三浦は紛れもなく、ガール・フライデーなのだ。
と、とっぴなことを書いた後に、ありきたりな感想を書いてしまいますが、もう赤いサーブが主人公のような映画ですね。原作では黄色のサーブだった(単行本の裏表紙の絵も黄色のサーブ900コンバーティブルだった)ので、赤のボディカラーへの変更は、ロングショットにおいても目に焼き付く、という効果が大きいでしょう。
本作も3時間近い長尺だが、まったく緊張感途切れずに見る。つまり、全編スリリング極まりない画面の連続だ。東京の場面、早朝の霧島れいかのシルエットから始まり、この監督らしい(『ハッピーアワー』でも『寝ても覚めても』でもそうだったように)、不在の(退場した)人間が、全編に亘って存在し続けるというモチーフを、お膳立てをする前半も、非常に緊張感に満ちているのだが、矢張り、プロットがドライブするのは、広島へ行ってから以降だろう。
まずは、オーディションシーンの濃密さに度肝を抜かれる。岡田将生の迫力も凄いが、韓国手話を凝視するカメラがいい。あるいは、公園での立ち稽古。女優二人に何かが生まれた、という場面。演出家の西島には彼女らの背中側しか見えてなかったのに、という見せ方がいい。
しかし、私が一番瞠目したシーンは、サーブの後部座席での、岡田と西島の切り返しだ。二人で、恋する空き巣の女子高生の話をするシーン。こゝの岡田のバストショット(及びアップ)が、めちゃくちゃ綺麗なのだ。四宮秀俊のローキーの腕の見せ所は序盤から多々あったが、こゝが白眉だと思った。
そして、北海道の三浦の実家の場面だ。雪の中に埋もれた家屋の痕跡。谷側からの仰角と山側からの俯瞰で切り返す。実は、このシーンの、駐車している赤いサーブのカットでエンドかと思った。その方が良かったのではないか、と今でも思うが、しかし、この後の「ワーニャ伯父さん」公演シーンにおける、韓国手話の演技・演出には感動した。さらにその後の小さなエピローグは不要ではなかろうか。
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