[コメント] ジョジョ・ラビット(2019/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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おそらく第2次大戦末期の、追いつめられたナチスの狂気が蔓延する世界が舞台なのだろう。本作は観客に世界がどうなっているかという情報をほとんど与えない。年代さえも示されない。観るものに伝わるのは、10歳の子どもに理解できる事柄だけに、意図的にしているのだろう。
私は母親の死も最初はわからなかった。広場に吊るされた反逆者の遺体にすがる少年の姿を見て「ひょっとして?」とは思ったが、子どもの怖い空想のようにも思えて現実感がなかった。それが、他の人から語られる言葉をとおしてやっと、何故ゲシュタポが少年の家にやってきたのか、彼らはその前に何をしたのかがようやくわかった。
大人の現実の狂気は、子どもの空想よりもはるかに恐ろしく残酷だ。小さな子どもの背中に手榴弾を差し込んで米兵にハグして来いと送り出す、まさに狂気の沙汰だ。
その狂気の中で、少年を守るために真っ当に大人の責任を果たしたサム・ロックウェルの勇姿には思わず涙が出て泣いてしまった。守られた少年は何が起きたかもわからず「その人を放して」と叫びながら、死の淵を逃れることができた。この恐ろしく残酷な世界は10歳の子どもにはこの映画のように見えているのだろうなと感じた。
だからこそ最後に、少年が心の友であるヒトラーを蹴飛ばした時はまさに拍手喝采だった。窓の外まで吹っ飛ばされたのはけしてオーバーな表現ではない。少年の勇気と良心の成長に心の底からの喜びが感じられた。
そしてラストシーン、少女と少年が向かい合ってごく自然にダンスを始めるのも良かった。スカーレット・ヨハンソンの伝えたかった事は、しっかりと未来を担う者たちに伝わったのだなあとしみじみと感じさせた。
ナチスが煽り立てた憎しみに立ち向かい、戦争の狂気を痛烈に批判するとともに、それに屈する事のない豊かな人間性を描いた傑作映画だと思う。
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