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[コメント] アリー/スター誕生(2018/米)

傑作。タイトルインの際のレディー・ガガのハミングは「虹の彼方に」じゃないか!しかも、ガガの声は、まるでジュディ・ガーランドの音源を使っているのかと思ったぐらい似ている。続くドラァグクイーンのバーでの、ガガの最初の曲は「ラ・ヴィ・アン・ローズ」。
ゑぎ

 このシーン、歌唱以上に彼女のタレント性を印象付ける。これはどうかと思ったが(もっと歌唱力こそ強調すべきではないかと思ったが)、カウンターに横臥させ、顔を向けて見つめさせる演出はいい。こゝで既にノックアウトだ。その後、やゝあって、ブラッドリー・クーパーと深夜のグロッサリーストアへ入った後のシーンがいい。店の前の駐車場に二人並んで座り、背後から肩なめの切り返し。これがとびっきり繊細な演出なのだ。即興で歌う場面だけ、ガガが立ち上がり対面するので正面切り返しになる。こゝは主題歌「シャロウ」を生む、全編でも最も重要なシーンと云っていいだろう。

 同じように、二人の人物を横に並ばせて、背中側から撮った印象的なシーンが、あと2回ある。一つは、クーパーが更生施設に入所してからの、医師との対話シーンで、こゝも、後ろから肩なめ切り返し。少年時代の家の天井扇風機の話をする、これも重要な場面だ。もう一つは兄貴、サム・エリオットとの和解のシーン。自動車の中、後部座席から、運転席と助手席を撮った演出だ。これらの画面は、正面でなく横顔主体の切り返しとなることで、繊細さがよく出ているのだが、同時に、相手側に顔を向ける際に大きく顔を振る所作となるので、画面に動きが出る効果もあるように思う。

 さて、他にも演出で特記しておきたいのは、クーパーが植え込みに倒れており、黒人の友人に起こされるシーンだ。友人が出現する仰角カットは唐突で、ちょっと変な繋ぎだな、と思っていると、その妻の登場も同じように唐突な仰角カットで、これは、ワザとやっているのだ。しかし、こうやってキャッチさせておいて、こゝから、結婚式へ話を運ぶ演出もいいと思う。このような中盤、後半になっても、弛緩しない画面造型は見事なものがある。その例でいくと、更生施設でのプールのカット(クーパーが水の中から浮かび上がるカット)なんて瞠目するし、あるいは、中盤以降の2度あるガガのヌードカットには、あっけにとられるではないか。一瞬ではあるが、乳房、乳首まできちんと写すし、全裸カットも繰り出すサービス精神は素晴らしい。日本映画ではちょっと考えられない、映画に賭ける意気が違う。

 そして、これはまず最初に書くべきだったとも思うが、ライブシーンにおけるカメラワークや、光を取り入れる画面がイチイチ実にカッコいい。さらに、シンガーとしてのクーパー、アクターとしてのガガのパフォーマンスには、心底驚かされる。それは、とりもなおさず、ディレクターとしてのクーパーの仕事に圧倒される、ということだ。

(評価:★5)

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