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[コメント] さよなら歌舞伎町(2014/日)

最も印象に残るのは立ちんぼうのオバさん。彼女とともにポルノ映画が昇華されたよう。油っ気の抜けた老境だから語れた優しい喜劇。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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サヨナラだけが人生、の空気濃厚に物語は始まる。逃亡生活の南果歩松重豊など、警官に羽交い絞めに引き離される姿を最初から予感させているし、イ・ウヌは天使のようにサヨナラしまくり、居酒屋でのロイとの別れの件はそこで映画が終わってもいい程に美しい。染谷将太樋井明日香に二度と来るなと返す(この別れには絶妙のユーモアがある)。

しかしここから物語は、共生の方向に向かう(警察のカップルを対照にして)。そして男の努力が問われる(松重だけは、どうしようもないから南が頑張る)。男ってのは女のためになら、ゴルフの的にだってなるもんだ、と。共に帰郷する決断も被災地へ帰る偶然もいい。まあ悪く取れば年寄りスタッフの小賢しい願望に過ぎないのかも知れないが、私は好感を覚えた。樋井の「ここじゃ被災地なんて関係ないじゃん」をどう受け止めるか、観る者は逆に問われている。バイト中年の私にだって重い問いかけだけど、背負わねばならない。負債のない人などいないよ。

前田敦子は客寄せパンダとの批判も目にするが、こうしてみると彼女だけがサヨナラを背負う(除警察カップル)のであった。かつて凸ちゃんは『渡り鳥いつ帰る』で主演扱いなのに数カットしか登場しなかったことがあるが、グダグダの性格俳優振りを披露して秀逸だったのを思い出した。前田も同様にレベル高いことを求められているのだから、ファンは怒らないように。

アルトマンばりのいいユーモアが散りばめられているのがいい。純情な村上淳も弾ける我妻三輪子も疲れた河井若葉もいい。私のお気に入りは南に自転車を譲る染谷の件。染谷のヌボッとしたユーモアは全編にわたり素晴らしかった。フィギアの看板が窓越しに見える韓国人のふたりのアパートは生々しい。結局、サヨナラは巡り巡ってタイトル通り歌舞伎町に向けられる(前田は歌舞伎町に住んでいるのではない、のだよね)。登場人物たちはもう誰もあそこに足を運ばないだろう。即ち、立ちんぼうのオバさんとともに、サヨナラポルノ映画。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ダリア[*] 3819695[*] ぽんしゅう[*]

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