[コメント] 早春(1970/英=独)
サッカーファンの彼女は、ジョン・モルダー=ブラウンを個室に引き込み、ジョージ・ベスト(マンチェスター・ユナイテッド)がシュートするイメージ(妄想)で昇天するのだ。これを全く大真面目に演じている。
そして、本作の白眉は、やっぱり、ホットドッグスタンドと「アンジェリカ嬢の看板」のシーンまわりだろう。モルダー=ブラウンと会員制クラブの受付嬢との会話が、360度パンみたいな手持ちのカメラワークで切り取られる演出にも、陶然となるし、こゝから、ホットドッグ売りの東洋人(ピンク・パンサー・シリーズのカトーだ!)とのやりとり、娼婦の部屋での会話シーンを経て、ストリップクラブの「アンジェリカ嬢の看板」を盗んで地下鉄へ乗り込む一連のシーンは素晴らしい。夜のプールに浮かぶ看板のカットも絶品だ。
また、全編に亘っていろいろと言及したくなる象徴的演出が散りばめられており、そういう意味でも、とても豊かな映画だ。冒頭から出血のイメージを喚起する自転車の赤いフレーム、赤いペンキ。登場間もなく、プールサイドを歩きながら、いきなり、プールの中に落ちるジョン・モルダー=ブラウン。彼はその後、何度もプールの中へ落下する。また、その際、水中では裸のジェーン・アッシャーが幻影として登場するのだ。これらはラストへ向かって収斂する象徴的演出だ。あるいは、アッシャーと「アンジェリカ嬢の看板」、モルダー=ブラウンと顔をくりぬかれた、妊娠した男性の政府広報ポスター、といったアバター的(分身的)装置。同様に、ダイヤモンドと雪、というのも、相似性の象徴として利用され、とても上手くプロットをドライブさせている。ただし、このような、観客が容易に言及することができる(することを促す)シンボリックな引っ掛かりを残すことは、果たして映画にとって良いことなのか、価値と云えるのか、少々疑問に感じるところもある。
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