[コメント] 南極料理人(2009/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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意識的なのかどうなのかわからないけれど、これ群像劇としてすごく弱い映画と思う。各々のエピソードはブツ切れだし、そもそもが振りと落ちしかない。すべての問題が小さいし、深刻じゃない。そのドラマの「深刻じゃなさ」が、なんだかすごく腑に落ちたんです。
つまりは、人生の出来事って、全部食事と食事のあいだにあるあれやこれやなんだよなぁ、という感じ。考えてみれば人間にとって生命維持に必要なのは食事と睡眠であって、恋や夢や裏切りや仕事やケンカは、食事のあいだの時間に行われる有象無象だと見ることもできるな、と。
そう思わせたのは、冬至に南極で世界各国の基地がいっしょになって行うというフェスティバルのくだり。あれってたぶん、自殺願望に対する克己なんですよね。わかんないけど、ずっと陽が昇らないとたぶん、人間って無性に死にたくなってしまうような気がするんです。だから、その闇の底の底の日にお祭りを用意して、一年でいちばん美味いものを食う。「美味いものを食べると、心から笑顔になる」ということの、その本来の意味。
そもそも、南極観測隊に調理担当が必要か、ということなんです。資材的にも人材的にも、保存食と電子レンジ一個で一冬越えたほうがよっぽど経済的なはずなんですよね。だけど人間だから、食事には生命維持以上の意味があるから、ちゃんとプロを派遣している。彼が美味いものをつくることが、これは明らかに研究の役に立っている。
翻れば、私たちもなんか食事以外の時間にいろいろやってますけど、そのいろいろをうまくやるためには良い食事をとってみるのもいいのかも、と思うし、死にたくなったらとりあえず美味いものを食ってみようとか、そんな風に食事の側から人生の時間というのを眺めてみると、またちょっと違った風景が見えてきて面白いなぁと、そういう映画でした。
だいたいが、本人が深刻に思い悩んでるほどたいした問題じゃないことも多いし、ほかの人から見たら今晩の献立のほうがよっぽど大事だったり、ということで。
ごちそうさまでした!
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