主人公の行動への不干渉を己に命じつつ、消して言葉のようにガサツではない細やかな思いやりを見せるオバケ。その表情は漫画的表現ながらパターンがあまりにも少なかったのだが、ここに蒼井は命を立派に吹き込んでくれた。「オバサン」でもあり「クソガキ」とも見える、この「いけちゃん」というキャラクターは随分難しい役であっただけに、蒼井の俳優として広げられた幅を認めねばなるまい。

対するに深澤も面白い。彼は「ドラえもん」の「のび太」のような作為的弱者ではない。決してポーズではない挑戦を、深澤は悪童連に為し続ける。彼は自ら気づくことのない誇り高さを秘め、それを発揮するに当たって最善の方法を知らないだけなのである。後半、いけちゃんの助力を得ることなくヨシオは苛めのスパイラルに巻き込まれた悪童連より知力で深みに立ち、なおかつ彼らに敗北を喫させるのが目的でないベストの解決法を選択する。ヨシオはいけちゃんの見込んだ男であり、下手な助力など不要なのだ。それゆえにいけちゃんは、無粋な言葉を使えばストーカー的に彼にくっついて長年を過ごしたのだ。

それがいけちゃんの切なさであるが、これは一方的な恋物語であって、ヨシオについては恋どころか物語ですらなく、日常の連鎖に過ぎない。だが、それがいい。これを観た子供たちには、愛情という把握しがたい感情を無理に教え込む必要はない。いずれ懐かしく振り返る日もあろうかと推測されるのだ。そういう意味で、小学生以上のお子さんを持つご夫婦には、夫婦水いらずは今回は諦めて是非お子さんに見せてあげていただきたい。きっと何かしら興奮できる要素を見い出してくれるだろうから。