[コメント] スター・トレック(2009/米)
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私は根っからのトレッキーではないが、本作がリメイクやオマージュといった域を超え、新しい生命を与えられた次世代の映画として着想されていることに深く感動した。
人には、思い出の作品というものがある。とりわけ多感な青年期を共に過ごした映画や音楽、小説といった芸術には、深い愛着を抱くものだ。それらはその人の人格に影響を与え、しばしばそれらに囲まれて一緒に成長してきたと錯覚するほどである。
そんな、無形の資産ともいえる、映画ファンにとっての「我が青春」を最大限に大切に扱ってくれたこの映画に大きな感謝を覚えてしまった。本作は、若き日々への無条件の賛歌なのだ。
二人の主人公であるカークとスポックは、すでに完成された人格である。映画の世界において、彼らは確固としたイメージを確立している独立したパーソナリティだ。だから出生の秘密だとか、親との確執といった、人物造形を上書きしかねない新たなエピソードは受け入れ難い。今までとは変わらない彼らの個性をベースに、若々しさだけを付与した新鮮なキャラクターとして造形しているのが実に聡明である。
やんちゃなクリス・パイン(ジェームズ・T・カーク)も悪くはないが、とりわけスポックを演じたザッカリー・クイントが素晴らしい。スター・トレックのアイコンといえば、艦長ではなくまずミスター・スポックであり、USSエンタープライズ号であるように、ここを継承の核とした判断は正しいと思う。彼の一挙手一投足には目を奪われたが、それにも増してレナード・ニモイのスポックプライム登場シーンには思わず目頭が熱くなった。
ニモイの顔に刻まれた皺、それはまるで『グラン・トリノ』のイーストウッドを見るような、懐かしさとそして少し寂しい思いがした。エンディングのクイントとニモイの対面シーン、それに続くエンタープライズ号クルーによるルーティンコールとニモイのナレーション。ここにはノスタルジーだけではなく、世代から世代へと引き継がれる現在進行形の人間の姿がある。
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