[コメント] 重力ピエロ(2009/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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なんとなくタイトルの部分がこじつけで、この映画はサスペンスなのか、それともミステリーなのか、家族愛の物語なのか・・・いや、仮にこの全部だったとしても、いったいどこが『重力ピエロ』ということなのかさっぱり理解できませんでした。
最近やたらと伊坂幸太郎さんの原作が映画化されていまして、私が見たのは『フィッシュストーリー』と『ラッシュライフ』ですが、いずれも複数の登場人物が重層的に重なり合う物語で、本作においても、かつての強姦魔と現代の放火魔がシンクロするという手法は正に伊坂幸太郎さんの本領なんでしょうね。(『ラッシュライフ』なんて最悪でした。)
さて原作の持ち味をどのように映画化するかは、常に難しい面があります。
その原作者も自分の書いた作品が自分のイメージとぴったりだった、などと本気で思っている方は存在しないと思いますが、やはり原作は原作、映画は映画であるべきではないかと私などは思っているわけです。
この作品についても、登場する人物がいずれも個性に欠けていて、主人公を演じる兄にせよ弟にせよ、その内面にある心理はともかく、映像の中では全く個性が浮き彫りにされることなく終わってしまいました。
弟のハルは、最初と最後に2階から飛んで降りてきて、オシマイ、という感じ。生みの父親と対峙する炎のシーンだって、もっと何か演技してほしかった。セリフを喋ってバットを振るだけだったら誰にでもできますよ。演技というには乏しい印象ですね。
しかしこれは役者にこの責任を押し付けるのではなく、潔く監督の責任とすべきでしょうね。映画的な映像に欠け、単なる原作をなぞるような展開だけだったら監督としての力量は不要ですし、原作の魅力だけが引き出されるのだったら、映画なんかにしかければよい。ようするにブームに乗った作品をただ作った、ということ以外に映画としての魅力は感じませんでしたね。
この兄弟の父親の魅力は原作から飛び出してきたものでしょう。小日向文世さんはとてもお上手ですね。若いころからの演技を上手に演じていました。弟のハルの父が強姦魔であることを知って空を見上げるシーンとか、最後に二人に「悪いことしただろう」と厳しくやさしく詰め寄るシーンなどは小日向文世さんでないとできない演技ですね。
神様にたずねたら「自分で考えろ」と言われた、というセリフには泣けましたね。
このように父親が優しくて怒らないというのは、とても重要です。怒らない生活を送る者が人生の勝者なんだそうです。この父親がこの映画で唯一の勝者だったのかもしれませんね。
2010/02/12(自宅)
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