[コメント] 白痴(1951/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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166分でも長いなぁと思ったのですが実際観てみたら物足りなさすら感じたので、フィルムカット、監督にとってはあまりに残酷な仕打ちだっただろうと思われました。今となっては私たち鑑賞者にとっても残酷な仕打ちです。やっぱり見ていてもどことなく不自然なところが多いし、説明不足にも感じたし、残念でなりません。
そんなフィルムカットが原因かは分かりませんが、前半はやや説明くさい感じがして退屈。ですが後半はスゴイ。森雅之と三船敏郎二人のシーンはどれも素晴らしいです。説明出来ない緊張感がずっとある。三船さんは正直脇役としては存在がうるさすぎてしまうんじゃないかと心配していましたが、意図的かは別としてなかなか静かに脇に徹していたと思います。彼は本当に訛りが気になるし滑舌が悪いし台詞が聞き取れないし大袈裟だし、でもそんな事どーーーーーーーでもいい!と思えるくらいどこからどう見ても素晴らしい役者です。気が狂った挙句、呆けてしまうシーン、瞬き一つしないあの目。素晴らしい。特異なるカリスマ性で、私は本当、毎回見事に彼に呑み込まれてしまいます。三船さんは当時31歳。私と同じ歳!!!信じられない。こんな31歳見た事ない、泣きそう。
そんな三船さんとは正反対の森さん。彼らのやりとりを見ていると体がじっとり汗ばんでくるほどでした。極寒の中、亀田(森さん)が震えながらも「暑いね」というシーンがありましたが、まさにソレ。また、その後二人で毛布に包まっているあのシーンのドストエフスキーっぷり!ドストエフスキー臭が充満するその映像に、私とした事が、思わず黒澤映画という事を一瞬忘れてしまったほどでした。
それから原節子と久我美子!どちらも品の良いお嬢様ってイメージがあったのですが、この作品でのお二人は凄まじいですね。女が絶対に男に対して向けない表情で互いを見つめるシーンの壮絶な事。片方の眉が上がる、目を伏せる、目を見開く、頬が引きつる、醜くも美しいあの表情の数々!妙子の微妙な心境も原節子さん(もまた当時私と同じ31歳!)の怪演で手に取るように分かる。清潔そうな彼女も魅力的だけど、個人的にはこういう原節子さん、すごく好きだな。
黒澤作品としては地味で娯楽性の欠片もない1本だけど、やっぱり力が漲っていて心を揺さぶられます。
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08.08.28 記
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