[コメント] レディ・ジョーカー(2004/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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原作は「グリコ森永事件」に着想を得た、となっており、そんな感じもわかるのだが、しかし、あまりに唐突な感じの終わり方で、なんか納得がいかないというか、すっきりしないものが残りすぎている。
ただ、吉川晃司演じる無頼の刑事は出色。高村薫の小説は「黄金を抱いて跳べ」しか読んでないが、その小説の世界にかなり良く似た雰囲気を漂わせた、凄腕だがどこか自暴自棄のところがあるという渋さはしびれさせるものがあった。
思うに、デティルにとことんこだわり、人物描写がくどいくらいに膨大な背景、過去を背負っているような高村薫の小説は、それに忠実であろうとすると映画にはかなり不向きなのではないだろうか?
なにしろ2時間の映画で文庫本2冊の物語を描くのだが、基本ストーリーを追うのが精一杯で、登場人物の背景や過去、細かいエピソードまではとても手が回らない、ということなのだろう。しかしひょっとして高村薫の小説の魅力は、そういう背景を背負った登場人物たちではないかなあ、と思った次第である。
実際、この映画では役者としてはもっとも存在感がある渡哲也が、いてもいなくても構わないような、実に変な人間になってしまって、それでも役者のネームバリューだけで存在感を持たされて、完全に浮いたというか、彼だけ、別の映画に出ているような芝居になってしまっている。
犯行グループの顔ぶれを見ても、現職刑事という強み、金融に明るいという長所、元自衛隊でトラック運転手で土地勘に明るいという長所、旋盤工としての技術を持ち体力もある若者、という構成に対して、いったい渡哲也がなんであのグループにいるのか、どういう役割を果たしているのかが、さっぱりわからなかった。
俳優の顔ぶれからして彼がリーダー役になると思うが、クセのある他の4人を統率するような男には全然見えず、せいぜいビール会社に怨み骨髄のひなびた薬局のおっさんにしかみえないのである。
そういう欠点は実に気なるのだが、その欠点をカバーして余りある、アウトローとしての破滅的な魅力を発揮した吉川晃司だけでも見ただけのことはあったと言えるのではないだろうか。
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