[コメント] 殺人の追憶(2003/韓国)
ポン・ジュノのテーマは明確だ。信念と怒りが別の不条理(時代や怪物)に阻まれて思い描いた威力を持って届かない悲劇や、あるいは結果や信念自体が変質してしまうといった「運命の不条理」と、抵抗の人間臭いもがきの力強さ、そして滑稽さだ。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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作劇の基本とも思われようが、ともすれば容易に空中分解する韓国的直情と滑稽を確かな画面構成力と脚本に包んで提示するので高度に映画として昇華する。直情に迷いがないだけに、不条理に翻弄される様に非常にやきもきするのだ。没入させる力が実に強い。これはいつの時代における鑑賞にも耐え得るテーマだと思う。どの作品でも安易なハッピーエンドに持ち込まないのは単に観客を欺こうとするあざとさではなく、「運命」に対する一匙の諦観と真摯な視線の表出だろう。
信念の敗北というテーマは驟雨の中最大の容疑者の首を絞め肉迫するも決め手を欠いて爆発するやるせなさと怒りに表れ、『グエムル』における火炎瓶(水道橋の柱に阻まれる)につながっていく。信念の変質というテーゼは皮肉な運命を前にしてもなお信念を貫くグロテスク(変質の変質と呼ぶべきだろうが)を描いた『母なる証明』(ラストダンス、じっと手を見る、鍼による記憶の抹消)に続いていく。一貫して象徴的なシーンを挿入する。
運命と信念についての悲劇。本作においては、冒頭からして既にカタルシスやテーマが推理と犯人逮捕の中にないことを宣言してしまう。このニヒリズムや無常観が「韓国的」であるのかということを語れるほど私には語る材料がないが、「運命」に対するその視線が非常に真摯で透徹しており、あくまで映画的エンターテイメントの中でテーマを昇華させようとするポン・ジュノ。大好きだ。今後も最大限に期待したい。
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