コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ゴジラ対ヘドラ(1971/日)

♪Hg・Co・Cd・Pb・H2SO4・オキシダン・KCN・Mn・V・Cr・K・Sr……。はい、あの主題歌を元素記号も交えて書いてみました。
荒馬大介

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 オキシダンは「汚染物質」なので元素云々ではない。その辺はご勘弁を。

 さて、初っ端から汚い空と海を映し出した本作のテーマはもちろん「公害」。それが当時どれだけの影響を与えていたか、ということをストレートに描いている。スタッフ・出演者のクレジットが出る場面でも、麻里圭子がサイケな段だら模様をバックに主題歌「かえせ!太陽を」を唄いつつ、汚れまくった海(特撮)を見せる。そして海のヘドロを十分蓄えたヘドラは陸へ上がり、煙突や車から排気ガスをダイレクトに吸い込んでどんどん成長し、しまいには自らが「公害」となって硫酸ミストを撒き散らすという脅威へと変化する。

 こんなヘドラに対して、人類はほとんど手が付けられない状態が続く。空も海も汚れて、生き物がいなくなったら俺達おしまいだよ……という、何とも終末感が漂っていてかつ退廃的なムードを全編にわたって漂わせている。そしてそのムードと、当時流行だったアングラ・サイケの要素は、本作では恐ろしいほどに合致した。OPよりもさらに派手な模様をバックに、やはり麻里圭子がボディペインティング風の衣装を身につけ主題歌のアレンジを唄い、若者達が狂ったように踊る。柴俊夫が見る幻覚も見事なまでに狂っている。ここだけでも個人的には必見だと思うが、どうか。

 さてゴジラはとりあえずヘドラと戦っていたが、それは何も人類の為とも思えないし、劇中でも「ゴジラは人類の味方」という考え方は明確にされていない。せいぜい少年がそう思ってるくらいだし、他の人物は(ゴジラとヘドラが戦うのを見て)「二匹で暴れられたら、この街めちゃめちゃよ」と心配している。その主人公の少年は汚れた海を見て「ゴジラがみたらおこらないかな おこるだろうな」という詞を書いていたが、実際ゴジラは怒っている。公害によって汚され犯される自然を見て、自らもその生存が脅かされかねないと怒っており、その根源の一つであるヘドラに立ち向かったに過ぎないのだ。同じようなことを人間も考えていたがために、ゴジラはまるで人類のために戦っているように見えてしまっただけのことだ。

 ゴジラからすれば公害を産み出した人間こそが最大の敵のはずだが、人類に対しては睨みつけるだけで終わっている。ゴジラは間違い無く怒っていたが、牙を向けることは無かった。♪返せ、返せ……というコーラスをバックに、やけになってヘドラのヘドロのはらわたを引きずり出し踏み潰すゴジラの姿。あの行動は、同じ曲をバックにして、退廃感と終末感からやけになってアングラバーで踊りまくる若者達と重なる。ゴジラが退廃感を持っていたかは分からないが、核で自分を産み出しただけでは済まされず、性懲りも無く公害によってヘドラまで産み出した人類に、ゴジラももはや「呆れていた」のではないだろうか。人類に牙を向けず一人(一匹)荒野を去っていくゴジラには、どこか「諦め」のようなものを感じてしまう。

 そしてもう一匹……じゃなかった、もう一つ、本作ではヘドラが倒されても何一つ事態は解決していない。去り行くゴジラと一緒に、スモッグだらけの工場と汚れた海を再度見せ、この世にヘドラを産み出しかねない現況が溢れていることを忘れさせないのだ。汚れちまった海と空、生き物は皆いなくなって、野も山も黙っちまった、正に沈黙の春。これが事実だ、と言わんばかりのメッセージである。この辺、シシ神様の首を元に戻した途端に森に緑が戻ったりする『もののけ姫』や、平成モスラのラストのような安直な解決策を取らない当たり、至極現実的だ。自分があの映画に何一つ共感出来ないのも、この映画のメッセージ性が異常なまでに強いからだろう。

 本作が作られてから30年が経つ。舞台となった田子の浦からへドロは消えた。空気も昔ほど汚れてはいない。しかし世の中は、30年前とはまた違う問題を抱え込んでいるようだ。

「ゴジラがみたらおこらないかな」

……怒るだろうな。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (11 人)たわば[*] tredair[*] おーい粗茶[*] ゼロゼロUFO[*] いくけん[*] Myurakz[*] ジョー・チップ[*] sawa:38[*] kiona[*] Ryu-Zen[*] アルシュ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。