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[コメント] うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー(1984/日)

訳もわからず「ポストモダン」を語ってた、永遠に終わらない日常を願う80年代昭和元禄の濃厚なビューティフルドリームの断片。080520
しど

テレビシリーズも見ていなかった私は、公開から20年以上を経ての初見。まず驚いたのは、映像が濃厚なこと。現在の淡白なCGセルと違った手描きセルの味わい、太さが微妙に変化する線や塗り重ねられた下地など。キャラクターもとにかくよく動く。アニメに詳しくない私にも発見できる、明らかに現在とは異なる表現を眺めていて、昔はアニメのことを「マンガ」と呼んでいたことを思い出した。

「東映まんがまつり」という映画の恒例シリーズがあったり、「マンガ時代」は、子供相手の巨大なマーケットに潤沢な予算が注ぎ込まれていた。やがて、青年向けにもマンガが作られ、「アニメ」が分岐していく。

この作品は、そんな濃厚な昭和のマンガ文化がアニメ、とくにマニア・オタク受けするジャンルへと分岐していく過程が非常にわかりやすい。マンガ的に一般受けする手法を用いながらも、少しずつ逸脱した実写表現を用いたり。内容も、ストーリーを楽しむばかりのマンガ作品に比べ、こちらは過剰な情報に満たされた世界観を楽しむような作品になっている。何しろ、物語の本筋であるはずの主役自体が曖昧である。与えられた記号的な設定に合わせてキャラクターが過剰に右往左往するばかりだ。

仲の良い者に囲まれた文化祭前夜が永遠に続く男の子と女の子達の世界。今となれば、豊かだったあの時代の空気そのもののようにも感じられる。国庫破綻、増税、少子化、格差化、様々な不安が累積する現在、この日常が永遠に続けばいいのに、なんて思えるだろうか。

近代の豊かさを享受した者が、その後にくる時代(ポストモダン)を様々に模索できた豊かな成熟期。しかし豊かさを次世代に繋げることができずにバブルは弾け、一気に衰退化していった日本。文化は、少子化を伴う市場縮小により脆弱化したメインストリームと、細分化したマニアックなジャンル群の濫立。もはや、同時代の人間が共有できる娯楽すら希薄になってしまった。その後の押井作品にもそのような傾向が感じられる。

男の子や女の子達が一緒に美しい夢を見ていられた時代の、夢を題材とした作品に、思いがけずノスタルジーを覚えた。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)緑雨[*] Orpheus DSCH[*] けにろん[*]

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