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[コメント] それでもボクはやってない(2007/日)

さすが周防正行、笑いのツボを心得てる。え?笑えない? 070122
しど

周防のメジャー作品は、「普通じゃない世界」に主人公が足を踏み入れてしまい、途中までは嫌々ながら、でも、一生懸命その世界の努力を重ねて立派な「普通じゃない世界」の住人に成長する、という展開が基本だ。今回の「普通じゃない世界」は日本の法曹界が取り上げられた。

過去の「普通じゃない世界」は、僧侶、学生相撲、社交ダンスであり、外から見れば普通と違っていて笑えるけれど、実は凄くまともな哲学に満ちている、というギャップが面白味の要素だった。しかし、今回は、外からはまともなのに、中から見たら滅茶苦茶だった、と価値観が逆転している。それが笑えるコメディではなく、笑えない社会派作品みたいになっちゃった原因だろう。おまけに、過去の「普通じゃない世界」と違って、今回の「笑えない状況」である冤罪事件は、自分とかけ離れた世界ではない。とくに、満員電車での痴漢冤罪は、関東の異常な通勤状況に置かれている者にはリアルな問題だ。

監督は『ファンシーダンス』から『シコふんじゃった。』の過程で、説明する映像を心がけるようになったという。下世話にもわかりやすい演出をすることで、一気に周防色が爆発したのである。つまり、この作品も、十分わかりやすい。コメディのツボを理解してるからこそ社会問題のツボも理解し、さらに、そのツボをわかりやすく説明できた。

また、すでに名声を得た娯楽監督が社会ネタを扱った意味も大きい。昨今、日本の司法状況とそれを取り巻くメディア報道は、被害者の権利を主張しながらも警察や司法行政側、判事と検察に有利な展開を遂げてきた。「裁判期間が長い」から「早く死刑を!」などと、論理の飛躍も平気だ。それを指摘する側を「人権派」として叩く層すら形成されているから、今回の題材も、例えば社会派の森達也の作品なら無視されるか叩かれて終わってただろう。しかし、これは、あの「周防作品」だから、メジャー作品として注目されるし、社会派とは無縁のフジテレビが製作に入っていたりもする(森達也を輩出したNONFIX色なのかな?)。そして、たくさんの人がこの作品を見て、作中でも説明される「無罪判決とは国家に逆らうこと」と「疑わしきは被疑者の利益に」について理解できるようになるだろう。

個人的には笑えない周防作品なのは残念だけど、こんな周防作品が見られたことはとっても幸せだ。あ、でも、やっぱり、作品は面白いし、オチは笑えると思うよ。笑い飛ばさないといられないもの。

(評価:★4)

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