コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] すずめの戸締まり(2022/日)

ロードムービーで、ワクワクする場面や懐かしさを感じる場面がいっぱいで面白かったよ。「それだけ?」え?あれ?私は何を観ていたのだろう?と再度観て思った。『千と千尋の神隠し』へのオマージュと回答だと。
のぶれば

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







女子高校生すずめとイケメン宗像草太の出会い。廃墟とミミズと戸締り。そして、ダイジンを追いかける旅。息をする暇もない流れで、すずめと椅子になった草太は出会った日から二人で旅を始める。こうした展開の速さは嫌いではない。

高校時代の一人旅で感じたワクワクが蘇る。「大丈夫か?」の心配より「行ってみたい」思いの方が圧倒的に強く、考える程に全ての状況が「行くしかない」の決断を後押ししてくる感じ。すずめが椅子(草太)と一緒に船に乗るシーンも、他の選択肢は無いと思われた。無謀なことに挑戦するのが勇気だと思い込んで突き進む。若さの魅力と弱点がきちんと描いていたと思う。

しかし、そこから私の悪い癖が出る。自分の経験やこれまでに観た映画等が、次から次へと思い出され、懐かしさや取り上げ方に感じ入り、作品の本筋から興味がややずれてしまう。

夜のフェリーの甲板で潮風にふかれながら海を見た経験、 旅先で意気投合した人の家に泊まらせてもらった経験、 廃校を利用した施設に感心した経験、 宮崎作品を彷彿させるシーンが幾つもあるなあとか、 1970〜80年代の歌謡曲を聞いて当時の記憶が蘇ったとか、

50歳を過ぎた辺りから、鑑賞中にいろんなことを思い出すことがずいぶん増えた気がする。それはそれで良さもあるのだが、反面で映画に浸りきれていない自分を残念にも思う。若さの特権を一つ失ったのだと気づく。それは成長なのか老いなのか。

すずめの育ての親、たまきに共感してしまうのも、その影響だろう。この作品を高校時代に観たならきっと、口うるさい親ともめずにやっていく煩わしさを、すずめと共感したと思う。親の心配をよそに好き勝手をやっているのに、親にはきちんとやってるから心配しなくてもいいの一言で終わらせてしまう高校生の感覚。一方で、嫌がられたくなくて、遠慮がちに口出しするものの一向に通じず、ついあれこれ言ってしまう親の感覚。

もちろん、小まめな連絡と、手抜きの連絡、どちらが良いということではなく、親離れ、子離れする中の駆引きだろう。どちらの味方につくかは、観客の自由。大事なのは、両者の思いがきちんと描かれていたことだと思う。アニメ作品では珍しい気がする。

たまきは、すずめを追いかけ、ついに捕まえる。そして、物語後半は、草太の友人朋也の車にすずめとたまきが乗り込み3人旅(猫?も同行)になる。この設定が良い。たまきとすずめの対立に、朋也が潤滑油のような働きで間に入ってくれる。ドライブのBGMに70年代〜80年代の歌が流されたのは、たまきの心情を意識したというより、今の大人世代の観客が少年少女時代を思い出すための演出に思える。新海誠監督(50歳)自身の思春期から選曲したのだろう。私は見事に、自分の高校時代のことを思い出していた。

残念ながら、ドライブは目的地手前で続行不可能になる。しかし、すずめとたまきは自転車で目的地へと向かい、やがて二人のわだかまりは消えていく。

ここで白状しておく。1回目に観たときは、地震で母を失ったすずめが閉じ師草太と出会い、一緒に旅する中で成長していくストーリーという印象だった。上にコメントした様に、懐かしく、ワクワクした感が強かった。それは間違いないのだが、大事な何かを見落としている感が拭えず、2回目を観た。

結果、10代の少女の成長と共に、親子関係も描いたのだと納得した。懐かしさあふれる廃墟やBGMは、大人を引き込む仕掛けであると同時に、子どもが大人の暮らした世界に思いを馳せる仕掛けにもなっている。新海監督の狙いの一つに、親子で話題にできるアニメ作りがあった気がしてくる。

かつて私は『千と千尋の神隠し』のreview にこう書いた。「現代の子どもを応援する一方で、実は痛烈な大人批判をしている様な気がする。大人は、映画を最後まで観て、いつまでも子どもの頃を懐かしんでいる場合じゃない。そんなことじゃ、大人はみんな豚になってしまうと宮崎氏は警告している様に思う」

千と千尋の神隠し』も『すずめの戸締まり』も10代を応援する作品であり、現実とは違う世界も描かれている。そこは共通しているが、大人へのメッセージは対照的に思われた。『千と千尋の神隠し』は大人の批判だったが、『すずめの戸締まり』は子どもを育ててきた大人への敬意を描いたのではないか。

自分勝手な解釈だと思うし、どちらが正しいかという話でもない。『千と千尋の神隠し』と『すずめの戸締まり』の間の20年で、時代も大きく変わっている。それでも、いや、だからこそ、この作品は『千と千尋の神隠し』へのオマージュと回答だと思えるので候。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)緑雨[*] けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。