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[コメント] 突入せよ! 「あさま山荘」事件(2002/日)

佐々のオヤジの自慢話をこれだけの映画にすれば立派なものだ
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







実は「あさま山荘事件」は「映画化すれば面白くなる」と以前から私が狙っていた企画だったのだ(俺が狙ってどうなるもんでもないが)。

その理由は、“対立の構図”“極限状態”“緊迫感”“内部抗争”“駆け引き”(ドンパチだけでなく知力戦としても)等々、映画的に面白い要素をふんだんに盛り込める素材だと考えているからだ。これは実話に対する甘えもある。現在の日本で架空の「戦争」を作ろうとしたらカルト教団だの怪獣だのといった設定を組まねばならず思想的に深みが無い。かといって舞台を第二次大戦に求めれば「反戦」「平和」といった分かりきったテーマを掲げねばならない。そんなわけで私の理想とする「あさま山荘事件」は警察・連合赤軍双方 とも徹底的に均等に描くことにある。(だったら『光の雨』も観なきゃいけないんだが高橋伴明嫌いなもんだからどうも・・・)

だがそんな事はこの映画に求めていない。だって佐々のオヤジが原作なんだから。原作は読んでいない。読んでいなくても分かる。どうせオヤジの自慢話さ。

ところがこの映画、徹底して主人公の視点に立つ事で、連合赤軍vs警察、警視庁vs県警、と対立構図を二つ作る事に成功している(正確には警視庁vs県警の対立に第三の見えない敵が加わっているというべきか)。中途半端に連合赤軍側を描くと消化不良を起こし、プロジェクトXどころか観客に分かり易く犯人の描写なんかを入れてしまう土曜ワイドになりかねない。 あえて観客に「神の視点」を与えなかった事はそれはそれで(思想としてはともかく映画として)成功だったと思う。 (そしてそれが「警察のプロパガンダ」という誹りを受ける事になるのだが)

なんだかんだ言いながらも原田眞人の演出は上手いと思うし私は好きだ(ケレン味たっぷり好きなもんで)。 多分、今、これだけの人間味のある群衆劇をまともに撮れる監督は他にいない。突撃シーンより会議室の方ががぜん面白かった(席順とかね)。ただこの音楽(気が抜けてるかと思えばやたら感動的にしようとしたり)はどうかと思うが。一応、勝ち戦ではなかった旨の描写もあるわけだが、もっと淡々と、いっそ踏み込んで「負け戦だった」とドンヨリ暗い終わりだったら私好みだったんだがなあ。

それより何よりこの映画、ドラマツルギーとしては失敗だと思う。さっき(二つの構造として)誉めたばかりの“対立の構図”が致命的ではないか。

通常観客が盛り上がる対立の構図は、“はみ出し者”や“アウトロー”が組織等の“権力”に立ち向かう所にある。「下」が「上」を負かす話が基本である。反対する周囲がしだいに理解を示すもんである。ベタだが、そういうもんである。 ところがこの映画では、主人公は既に権力を背負ったうえに大半の人間が最初から理解を示している。要約すると「上」の人間(海外でも学んだ利口で先進的でエリート)が「下」(馬鹿で間抜けで田舎モンで頭の固い県警)に乗り込んでって「どうだ俺様が正しいだろ」という話になる。そんな「上が下を負かす」構図にカタルシスなんぞあるはずもない。あえて佐々以外を主人公にするか、やはり連合赤軍との対立を柱にするか、佐々が死んだ後に伝記映画とすべきだったのだろう。

まあ、形は違ったとはいえ、私の狙った「あさま山荘事件」は映画化されてしまったわけだし、次は安田講堂か?実話に弊害があるなら、かわぐちかいじの「メドウーサ」なんかどうだ!

(評価:★3)

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