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[コメント] 父と暮せば(2004/日)

語るべき物。物語る力。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この映画で圧倒されたのは、井上ひさしの原作(戯曲)の「物語る力」だった。

劇中、民間伝承を語り継ぐという形を借りて、この物語は「語るべき物(語り継ぐべき物)」があると強く訴える。 「ありのままを伝えるんだ」という言葉を借りて、市井の人の視点で原爆被害を物語る。 そして我々は、あの戦争を語り継ぎ、決して忘れてはならない。 と思わせる創作物としての「物語る力」がある。

おそらく黒木和雄は、意図的に舞台的な演出を残したように思える。 例えば、宮沢りえが親友の母親に会ったエピソードを話すシーン。 凡庸な監督(あるいはプロデューサー)なら、ここは一人語りでなく実際に再現するだろう(たぶん私もそうする)。 「私は幸せになってはいけない」と彼女が強く思うきっかけのシーンでもあり、インパクトを持って観客の感情を揺さぶるシーンとなり得るからだ。 しかし黒木和雄クラスになると映画全体を見回している。 このシーンのインパクトが強すぎると、悲しみを強調しすぎて物語の本質を見失いかねないのだ。

この映画の本質は、「語るべき物(語り継ぐべき物)」を描くと同時に、「一歩踏み出す物語」でもあるのだ。 この映画は、父娘と浅野忠信演じる男しか登場しない。意図的に他の人物を登場させない。 父が去り、男が家に来る“予感”で映画は終わる。 父は過去を象徴し、男は未来(あるいは希望)を象徴しているに違いない。

(11.08.08 BSにて鑑賞)

(評価:★4)

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