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[コメント] イレブン・ミニッツ(2015/ポーランド=アイルランド)

ザ・シャウト』の拡大版なのだろうか。何度も挿入されるノイズと切迫した剣呑な世界。収束に興味が湧かないのもまた同じだった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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この映画は中盤までは随分面白い。短い時間に多数の人物が交錯する手法は新しいものではなく、探偵ドラマの解決編で毎週のようにテレビで流れている。私はこの解決編が好きなのだ。どうでもいいような平凡な生活の一断片が、そのとき起きた事件によって深掘りされてゆく様は、どう料理されていても面白い。繰り返しの日々が新たな意味によって見直されるのは、いいものだ。本作の面々は大半がニューロイックな連中だが、派手な日常も彼等にすれば妄想ないし職業の反復なのだろう。何の意味も結ばないのは探偵ドラマのパロディのようだ。

ラストは、どうなんだろう。呆気にはとられたが、感想は特に湧かなかった。事実は小説より奇なりな訳で、あれが事実なら驚くが、虚構なものだから漫画のようなあざとさが先に立つ。ナンセンスなコメディタッチでもあるが、ブラックユーモアのニュアンスは不思議とない。西洋らしい神の懲罰という含意はレスキュー隊員も被害者に含まれるのだから無効であり、むしろそのような意味づけを批判しているようでもある。

スコリモフスキー本人はインタヴューで、ナチに殺害された父を引きつつ、不幸は突然に襲うものだ、と答えたと新聞に載っていたが、これもインタヴュー向けの模範回答としか受け取れない。本作に政治的な意図は希薄だから(ビルすれすれを飛ぶジェット機に9.11が見えるが、表面的だ)。全員集合となるホテルという場所に何も意味も投げかけないのもまた非政治的、これはワルシャワで撮られたという意図が見えないのとパラレルだ。抽象性を志向しているのはラストのモザイクで明白だろう。結果、神の意志は人間にはナンセンスなものだ、というありがちな位置づけで整理できちゃうのであり、食い足りない。

ゴダールは3Dを撮り、スコリモフスキーはデジタルを駆使して本作を撮った。老境監督の若々しさは頼もしい。しかし最後の妻の転落のCGはアニメ映画のようで平凡以下だ。さらにこの際、ホテルの警備員も妻の転落が当然視界に入っているはずなのに、驚くでも慌てるでもなく、視線もやらずに旦那の捕獲に躍起になっているのはおかしい。随分単視眼的な演出に見えた。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)disjunctive[*] けにろん[*]

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