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[コメント] アメリカン・スナイパー(2014/米)

心臓の音が聞こえるほどの緊張。銃声。命が失われる。子ども、女性、関係ない。戦場の恐ろしさをまざまざと見せつける。ただ戦争は勝敗なんか重要なわけじゃない。英雄と言われ終始称えられたカイルですらイーストウッドはこうも空虚に描くのだから。
deenity

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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音響とっただけあって迫力は抜群!エンディングの無音まで含め、改めて音による力を感じる。音響と相まって戦争を描いた作品としては実にクールな出来だと思う。ただこれを戦争映画というくくりでまとめてしまうのはどこか違くて、イーストウッドの主張はそこにこそあるように感じる。

主役であるカイルは戦争では「英雄」「伝説」と称えられる。才能だけでなく人柄も良くて最高の旦那である。では戦争を迎えてからの私生活はどうか。戦争の影響を受けない人などいない。運転中にミラーに映る車に落ち着かない、常に血圧は高いし、子どもとじゃれ合う犬を殴り殺そうとする。普通じゃない。普通の生活など送れるはずがない。当たり前のように子どもを殺し、女を殺し、常に自分の命も危険に晒し、国のためという名目はあれど行動するのは一兵士であり人間である。冒頭で羊と狼と番犬の比喩が出てきたけど、カイルは親の言う通り番犬を目指し、 番犬であったと思う。しかし、最後には番犬であるカイルはじゃれ合うだけの平和な羊である飼い犬を狼と区別できず襲うのである。やはりこれは精神異常を表現する以上に何かのメタファーであると思う。番犬はカイルでありアメリカであろう。カイルは一人の人間であるからこそ最後には立ち直ることができた。しかし、アメリカという国になればどうだろう。何億という人間があふれる国を変えることは簡単ではない。アメリカはこういう戦争を重ね、何を学ぶのだろうか。本当の平和を守る番犬にはなり得るのだろうか。もっとも、番犬であるはずのカイル自身も戦地から帰ると「蛮人を殺して何が悪い」と言い放つのはやはり印象的。番犬と狼は紙一重なのであろう。戦争をスナイパー同士のやり合いに焦点を置き、アクション色濃く見せてはいるが、社会的メッセージが大きく含まれた作品だと感じた。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)pinkmoon[*] ぽんしゅう[*]

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