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[コメント] アメリカン・スナイパー(2014/米)

女や子供を撃って英雄になった話しなど聞いたことがない。そんな奴がいたとしたら、何らかの教条に縛られた思考狭窄者だ。殺人を使命とする狙撃兵の神話化とは、国家の冷血さを隠すための国家による詭弁でしかない。愛国という呪文が人の倫理を麻痺させる。
ぽんしゅう

弱い羊を狼から守る番犬になれ、という詭弁。羊と狼、そして番犬が「個」として確立されいている場合、その理屈は成立する。例えば、神話化された西部劇(騎兵隊ものを除く)がそうだ。羊と狼、そして番犬の関係が「組織」として対峙したとき、構造は複雑化し単一の価値は意味をなさなくなる。例えば戦争映画が常に直面する困難さがそれだ。

イスラム原理主義者にとって合衆国は、金と堕落思想で世界を破滅に導く狼。合衆国にとって大量破壊兵器を隠し持つ(持っていたはずの)イラクはいつ牙を抜くやもしれない狼。そこで戦場に駆り出された番犬たちは、戦闘の狂気から自分の心を守るために自らの殺戮を正当化し、精神をすり減らし、疲弊した腑抜けと化す。そのとき「弱い羊を狼から守る番犬になれ」と囁いた主が誰だったのか番犬には分からなくなっている。

呪文は単純な方が心に響く。いちど正論もどきの甘言に侵されると、人はその呪縛から抜け出せなくなる。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)死ぬまでシネマ[*] pinkmoon[*] ALOHA[*] deenity[*] ペペロンチーノ[*] サイモン64[*] もがみがわ[*]

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