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[コメント] ブラッドシンプル(1985/米)

下世話な話をやたらと面白く撮るコーエンの悪意の濃縮原液。日常が異界化するのではなく、彼らにとっては日常こそが異界であり、錯覚した観客を呑み込むのだ。焼却炉やヘッドライト、ネオンの禍々しい美しさ。そして、ひとの弱さと滑稽が転がす痴話喧嘩を、ねっとりしたたる血が嗤う。笑うのではない。嗤うのだ。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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優れているシーンを挙げだすときりがないが、ひとつだけ挙げるとすれば、間男が寝取られ男の事務所で「後始末」をするシーン。後ろめたさと狼狽でしなくてもいいミスを重ねる様もさることながら、必死で血を拭く男をよそにドアを一枚隔てた先で店が開店し、能天気なダンスミュージックがかかる。拭いても拭いても血は滲む。さらに追い打ちをかけるように客の女の笑い声が被さるのだ。その談笑に過ぎない笑いが、血による男への嘲笑にしか聞こえない、という演出。この悪意は後作にも連なるコーエンの哲学だ。

何かがすこんと抜け落ちた瞳が印象的なマクドーマンド 、ねばねばした悪意が悪臭を放つウォルシュなど、役者はみな素晴らしいが、ダン・ヘダヤの眼力が後期出演『マルホランドドライブ』水準であれば・・・とわがままを言ってみたくなる。

(評価:★4)

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