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[コメント] アメリカン・ギャングスター(2007/米)

アクションを抑えて人間関係で見せていく気概は買うし、終始退屈しない絵作りで満腹感もあるが、広げた枝葉を丹念に紡いでいく丁寧さに欠ける。
shiono

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ワシントンが作り上げるバンコク・コネクションと、クロウと相棒を巡るダーティーな警察組織を見せていく序盤はよかった。色味を抜き、ライティングを制限した70年代コップ・ストーリーの雰囲気にも浸ってしまう。だが、人物が増えてくると、脇役端役を印象的に登場させることで精一杯で、そこで生かされたキャラクターが再びストーリーに還元されていく醍醐味に欠ける。

見ていておやっ、と思ったのが、クロウが2万ドルを借り受け、末端の売人から上流へと金の流れを追跡しようとする場面。悪徳警官ジョシュ・ブローリンと初顔合わせするいいシーンがある。しかし、このアクシデントにかかわらず、クロウは後日あの売人の元へヤクを取りに行っていなければおかしいわけで、そこに捜査のドラマが生まれる余地があったのだが、そのくだりは省略されてしまっている。

女優陣はそれぞれ把握しやすく適所に配役されているが、ワシントンのファミリー、クロウの捜査チームといった野郎どもが、ボスの引き立て役としての群像に留まっているのも惜しい。司令塔は魅力的だが、組織の動きというものが立体的に見えてこない。終盤の軍用機調査のくだりでも、徹底捜索なのか、囮にしておびき出すのに使うのか、その戦略転換の手はずがすっきりしない。フェンス外から双眼鏡で監視の絵もちょっと間抜けだ。

一代で成り上がったワシントンの成功の要因は、直接間接的にベトナム戦争の影響を強く受けていると思われる。対するクロウの職業倫理もまた、自信を失ったアメリカ社会の反動であるのかもしれない。『ミュンヘン』『ゾディアック』もそうだが、比較的近い過去の実話をじっくり掘り下げて描く近年のハリウッド映画は、現代に直結する重厚なテイストで見ごたえはある。その中でもこの映画はスター共演の娯楽作としても楽しめるエンタテイメント寄りの良作だった。

(評価:★3)

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