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[コメント] ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル(2011/米)

ハックされない心理描写と、ストレンジラブぶりが希薄な「博士の異常な愛情」
SOAP

**ネタバレ注意**
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面白い。新しいテクノロジーをふんだんにネタとして盛り込み、奇想天外なアクションをツッコミをいれながら鑑賞できる。また、テンションを維持したまま観客を引き込むストーリーの小気味良い展開が巧妙である。

新しく描写されているネットワークのハッキングというのは、スパイ活動を円滑にしているのは間違いがない。その分、直接身体を使う侵入行為をする機会が減ってしまうのは確かだろう。しかし、それを地味なデスクワークで終了はさせない。コンピューターでのハック行為に限界が来た時、自然とハック行為を肉体を用いてのアクションへと展開していく。そうお馴染の古典的なアクションである。吸着手袋でビルを登るのも、分析官が巨大換気扇へ落下していくのも、テクノロジーが新しいとはいえ(それ以前に非現実的な道具であるのが、ファンタジーでありユーモアであるのだが)、お馴染のものだ。 この映画は、その現場、現場での危機の連続を乗り越えるための、そして、ミッションコンプリートをするための奇想天外なアイディアとその遂行だけを、スリルに展開するだけの映画だと言えるし、そこに重点がおかれているエンターテイメント作品であることがいえると思う。そのような作品はいくらでもあるとは思うのだが、この映画での特色は、上記した新しいテクノロジーと融合されたアクション。と、もうひとつは、希薄な登場人物の心理描写であると私は考える。 しかし、先に私の結論から言うと、心理描写は希薄といえども、絶体絶命の危機時、実現可能性が極めて低そうな危機時での、登場人物4人の頭脳のひらめきと、身体を用いての実行、そのときのチームワークが魅力であり、それがこの映画がエンターテイメント作品として成功している点だと私は思う。

4人の心情にそれほど深入りされることはない。妻を失った割に、イーサンの悲しみは描かれない。妻を失った事は最初から明らかにはされないし、そもそも妻は死んでなかったのである。また、カーターは同僚を失い、スナイパーに恨みを持ち、報復を行う。しかし、多少のアクションののちに、あっけなくビルから落としてしまう。少しドラマがあるとすれば分析官ブラントの仕事ミスの後悔ぐらいであるが、ほとんど表面上の描写だ。サイモン・ペグは、ただのおしゃべり(笑)。このようにコンピューターシステムをハックしても、登場人物の心理面はハックされないのである。 心理描写の欠如は、敵の描写にも言える。 今回の敵の描写は非常にドライである。敵がどんなにあくどく、憎たらしい奴かという描写がない。 5年前に鑑賞して記憶にはあやふやだが、Mi3においてフィリプ・シーモアホフマンは悪役を好演していたと思う。しかし、今回はそのような主人公たちが立ち向かう敵の狂気がさほど描かれていない。IMFが政府と切り離された後の車両内で、コバルトの核への異常な愛情が少しコンピューター上で解説されるだけである。そして、ラストに、核のためならとコバルトは駐車場で自ら命を落としてしまう。

一人の博士の異常な核への変質的な愛情が世界を滅ぼそうとするのは、いうまでもなく「博士の異常な愛情」と酷似している。しかし、その酷似は設定上だけであり、博士の異常っぷりはほとんど描かれない。異常っぷりを描けば描くほど、嫌悪感をもたらし、悪を懲らしめるという話として成立してしまうのだが、それを忌避しているかのようだ。

ここから、正義が悪をやっつけるという分かりやすいお話が、現代ではあまり求められていない事が窺えるのではないだろうか。それは昨今の多くのアメリカ製の映画(やはりダークナイトが白眉なのであろう)にも言えることだ。

12/1/21

(評価:★3)

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