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[コメント] ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル(2011/米)

シリーズの「007化」で損なわれるタイムリミット・ミッションの面白さ。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「M:i:III』の時にも少し書いたけど当シリーズの本来の面白さ、特に「007シリーズ」に対し差別化されている点は、主人公たちはスペシャリスト(技術屋)であり意思決定とは切り離されたところにあるところだと思う。

使命の本来の着地点が彼らの知るところではないがゆえに、とにかくその「困難な」使命を時間通りに完了させ次の工程に引き継がなければならないという状況なわけだ。ミッション発令がマクガフィンとなることで、「他にもっと安全で確実な方法」の選択を視聴者は考える必要がなくなり、その目前の困難なミッションに対抗する「工夫」と「(時間などの)制限」を楽しむのだ。逆に言えば、最終目的(着地点)を知っていて、つまり意思決定の権限を持っていれば、プロセスはどうであれそこに到達すれば良いことになり、その設定が「出たとこ勝負」の007の面白さとなる。謎を捜し求めていく冒険の007と、「難問クイズ」を「解く面白さ」のMI。それぞれゲームの質が違うのだ。そして各々のテーマ曲が見事にその違いを表現していると思う(手探りで危機の中に潜入していく導入とその先に広がる興奮の前者、タイムリミットを印象づけるリズムテイクが基調の後者)。

前置きが長くなってしまったが、本シリーズは「3」から(「2」が未見なので「2」からかも知れないし、考えようによっては「1」からすでにそうだともいえるのだが)イーサンが意思決定の一部を担うようになっている。そうなってしまうと、「困難な状況」の設定が、本部からのクイズではなく、自ら招いた窮地やハプニングということになり、どうしても007と似てしまうのだ。つまり「3」のバチカン潜入や、本作のクレムリン潜入のような、ペペロンチーノさん言うところの「仕込み」や「手順」などの工夫の面白さではなく、ブルジュドバイのサーバルーム潜入のような「機転」や「運動能力」の面白さに偏ってきてしまう。

こうなってしまうと要はどっちも007であって、後は見せ場のアイデアで勝負ということになってしまう。それならそれで今回のブルジュドバイのようなより過激なスタントという方面での競争がレベルをあげていくことに期待する一方で、観客には楽しみの幅が減っていってしまっているのだ。ミッション:インポッシブルな面白さとは、簡単に言えばラロ・シフリンのテーマ曲にマッチする場面の想像である。導火線の火花に導かれるのは、世界の観光名所やご当地美女の踊りじゃない。トムにはそこんところを再考して今後を制作していって欲しいと思う。結局ジェームズ・ボンドをやりたいということはよくわかるのだが、それとは別の伝統ある看板をもったシリーズの映画権をもっているという責任も感じて欲しい。最後に「ミッション完了!」とイーサンに叫ばせなければ、まんま007じゃんということを自覚しているのだから。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)Orpheus chilidog[*] chokobo[*] もがみがわ[*] ジェリー[*] けにろん[*]

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