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[コメント] バトル・ロワイアル(2000/日)

tribute fukasaku...
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 あまり賛同者がいないのは承知の上だが、私はこの作品を邦画史上に残る傑作だと思っている。これほどまでに作り手の息遣いが伝わってくる映画は滅多に見ることができない。

 この映画の原作となった小説「バトルロワイヤル」の作者・高見広春は、この設定を「悪ふざけだった」と言っている。その証拠に作者は、生徒に殺し合いを強いる大人を「坂持金発」と名付けている。サカモチキンパツ。誰がどう考えたってあの日本一有名な中学教師のパロディである。その彼が「え〜、今日はちょっと皆さんに小テストをやってもらいます」という代わりに「ちょっと皆さんに殺し合いをしてもらいます」と言ったらおもしろいだろう。そんな小さな悪ふざけから広がった小説なんだそうだ。

 そんな作品を映画化するとなれば……めちゃくちゃに不謹慎で、ドキドキするような殺し合いを描ける監督……当時、深作以外に適任者はいなかったはずだ。

 映画化に際し、原作とのもっとも大きな設定変更は先生役だった。実際に子どもたちを殺し合わせる先生役に、深作はビートたけしを指名した。たけしが演じるこのキタノ先生は42人の子どもたちの命を手のひらで遊ぶほどの「力」を持ち、徹底的にエゴイスティックで、そしてロリコンだった。妻子を顧みず、ひとりの女生徒への思いが通じないと見るや、自ら企図して男子生徒の手にかかり死んでいった。この大人はひとりでは自殺さえできなかったのだ。42人の子どもたちの命を弄び、最後にはその責任を放棄した。

「大人というのは、子どもには決して及ばないほどに強大で理不尽な「力」を持ち、そしてこんなにも無責任なんだ。おまえたちは、大人に頼っちゃダメだ」

 深作はキタノ先生にそう言わせたかったのだと思う。ビートたけしはその大人の「負」を見事に演じあげた。

 そして深作は映画の最後に、こうクレジットを打った。

 走れ。

 それは70才になった深作が、大人として、子どもたちに何を言ったらいいか、という自問への答えだった。そしてそれは彼の、最後のメッセージとなった。

「どこまででもいい。精一杯でいいから、走れ。」

 私が70才になったとき、遅れて来る世代に対してこんなことが言えるだろうか、と思う。それは深作が生きてきた70年の中で、真摯に人間を愛し、世界と向き合ってきたからこそ言えた言葉なんだと思う。自分の世代と子どもたちの世代をはっきりとした異文化として捉え、それを受容し、応援して見せた70才の深作の仕事に、私は深い感動を受けた。

 映画監督深作欣二は、どこまでいっても、どれだけビッグネームになっても、客にサービスすることを忘れなかった。「バトルロワイヤル」の中でも、深作を敬愛しているというジョン・ウー監督に似たカット割を使って見せたりして、観客を楽しませてくれた。

 例えば黒澤明は晩年、映画を使って自分勝手に神様に会いに行ってしまった。黒澤は私たちを置いてけぼりにした。しかし深作はいつまでたっても、腕利きの映画職人であり続けた。撮影所の雇われ監督から始まって巨匠と呼ばれるようになるまで、彼はずっと映画が大好きなやんちゃ坊主のままだった。

 最後に。私もこの映画を見て、遅まきながら「走ろう」とひとり呟いてしまったことを告白しておく。

(評価:★5)

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