[コメント] ラストエンペラー(1987/英=中国=伊)
達観と矜持の間を行き来する、ジョン・ローンの佇まいに痺れる。
物心つく前に皇帝に据えられた男は、やがてその地位の虚構性を自覚するにつれ、アイデンティティの崩壊と必死で戦いながら、全世界全歴史においても他に類を見ない数奇なる運命を生き抜く。
「もう皇帝ではない。城壁の内では皇帝だが外では違う」
「陛下は、多くの国民にとって大切な象徴なのです」
「日本には同世代の天皇もいて、親近感があった」
「上海を爆撃したい。中国が嫌いなの」
「満州の最高権力者はあの甘粕よ!」
「そんなに嫌なのか、利用されるのが」
「私は庭師だ。あの人はよい教師だ!」
「…私も昔ここに住んでいた」
印象に残る数々の台詞。
300年近く中華世界に君臨した最後の統一王朝が、近代と西洋という外からの猛威と、民族、軍閥、イデオロギー…内戦という内なる暴力でズタズタに崩れていく様が、溥儀の宿命に重なる。
一方で、フィクションの部分もよく出来ている。自転車、眼鏡、コオロギ…象徴的な事物も印象深いし、まさに運命に翻弄されていく后たちの描き方も痛切。
このように歴史がけっこう赤裸々に描かれている作品で、制作国に中国が名を連ねているのも、今となっては奇跡のようなもの。国際関係もすっかり変わってしまった。おかげで、故宮(紫禁城)がロケ地となり、あの壮大壮麗な即位式のシーンが実現したのだ。
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