コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 沈黙 -サイレンス-(2016/米)

窪塚洋介の弱さの演技など評価すべきポイントも多くあるのだが、後半に蛇足が顕著であることが惜しまれる。ロドリゴに訴えかける「声」の描写をもって物語を閉じるほうがいい、というのは日本人の美学であり、スコセッシが敢えて提示したのは揺るがぬ正解を求める欧米人観客へのサービスなのだろうか。「言い訳」のようなラストシーンには少々興を削がれたのが正直なところだ。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







それとともに、フェレイラと棄教後のロドリゴの敗北感を背負ったような表情もどんなものだろう。これも蛇足に加えてよいと思える。自分のなかに誰恥じることもない信念があるなら、あの居心地の悪さは「最後の宣教師」ということばを自ら裏切るように思えるのだが。もとより彼らのなかにある父たる神の絶対性と、日本人の多くが抱いている、柔軟だが情に折れて子の罪をも許してしまう母たる神との相克がこの物語の肝なのだから、そこにこそ重みをもたせないことには誤解は広がるばかりだろうに、と思えてならない。正義はこの国にあってはひとつではない、というのが遠藤周作の訴えるところのはずだ(だからこそ、みっともない生き恥を晒すキチジローも勝ち誇るように教えに生きてはならず、みっともないままでロドリゴの許しを乞い続けねばならないのだ)。

もっとも、そうあればこそのラストシーンには違いないのだろうが、相克を超える教義を絶対として描く時点でこれは「遠藤の『沈黙』」にはなり得ない、ということも付きまとうジレンマではある。篠田正浩にとっても描けなかったこの作品の肝は、やはりスコセッシの手にも余るものではあったようだ。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (4 人)けにろん[*] pinkmoon[*] セント[*] おーい粗茶[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。