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[コメント] シリアナ(2005/米)

複雑な題材をうまく纏めたプロット、写実的な構成と撮影が生み出すリアリズムのテイスト。反面、人物描写は記号の域を出ない。人間ドラマが新しくなければ、新しい感銘は無い。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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扱っている題材は間違いなく新しく、また、向き合うのに労力と精神力が要るのは解る。よくも2時間強に纏め上げたとも思う。だからこそ、嫌いにはなれないし、三点は辛いかとさえ思う。だが、題材と映画は別なのだ。映画としての食感は『トラフィック』の二番煎じ以外の何者でもない。

ディテールのディフォルメを極力嫌う脚本は設定も状況も明示しないが、前半において一見散らかされたかに見えた断片は、後半にあってはきちんと繋がり、物語を明瞭にしていく。そうして今度は物語が個々の人物たちの皮を剥がしていくのだが、しかし、そこに立ち現れたそれぞれはどれもこれも解りやすく、また、既視感に塗れている。

利権を一手に収めてご満悦なアメリカ企業のブタども。灰色に見せかけても黒に帰着するのが見え見えな司法のブタ。そのブタどもに追従するシリアナの王はこれまたブタだが、それに反発する王子は何とも童貞くさい。王子の理想に傾倒していくアメリカのコンサルタントもこれまた童貞くさい。そして、ブタどものせいで困窮する現状が唯一のモチーフとなるテロリストは童話に出てくる処女のように純朴だ。極めつけに、CIAから切られたエージェントは、切られて正義に目覚める任侠ぶりである。

複雑な題材を写実気取りで綴り、リアリティーの醸成に努めながらも、人物のモチーフとアクションは上記のような記号の範疇をほぼ出ない。主要人物に深みを持たせるべく時に挿入される家族の描写も一向に機能していない。ドラマティックなシークエンスを嫌う写実志向は、ともすれば人物描写の等閑と紙一重だ。或いは、最後にパズルが組み上がって見えるのも、個々のピースの「色」は複雑でも、「形」は大して複雑ではないからでは、などと穿った見方までしたくなる。結局のところ、新しい感銘を与えるのは、新しいドラマをおいて他に無く、新しいドラマを生み出すのは、逆説的だが、普遍的に、人物のモチーフとアクションを掘り下げる古典的な努力なのだ。この映画にはそれが足りない。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)Orpheus ハム[*] けにろん[*] ina 死ぬまでシネマ[*] ミドリ公園

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