[コメント] プロヴァンスの贈りもの(2006/米)
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2時間の枠の中で物語をテンポ良く展開させることには興味があるが、じっくりと味わいを持たせながら南仏の美しさを描くことには興味がない。この映画でのリドリー・スコットの演出を見ているとそう感じてしまう。
ラッセル・クロウ演じる主人公がロンドンからプロヴァンスにやって来た際、ロンドンでの証券取引シーンのリズムのまま美しい田舎の風景に入ってきたのが大きな失敗だった。舞台によって、適したリズムは変わるもの。主人公が都会から田舎へ行き、そこで何かを発見するという物語の場合、田舎に行ってからのゆったりとしたリズムがあってこそ、見ている側も心が和み、主人公の心の変化にゆっくりと浸っていくものなのだ。
プロヴァンスが舞台になってからも展開が速すぎる。さまざまなエピソードを首尾良く消化しているが、あれだけ美しい景色が周りを囲っているのに短いカットのせいで全然それを見せてはくれない。叔父の思いを知り、新しい恋を経験することでの心の決定的な変化も、エピソードが線として流れていかないため、あまり感じられずに終盤まで来てしまった。
アレクサンダー・ペインの『サイドウェイ』は、カリフォルニアのワイナリーを舞台に、映画にもワイン的な味わいをもたらしてくれたが、この『プロヴァンスの贈りもの』の場合、南仏プロヴァンスという最高の題材があるのに、ワインの味わいどころか、安いビールとクラッカーにような一瞬で終わる低俗な仕上がりになってしまった。
強いて良かった場面を上げると、それは主人公がプロヴァンスに戻ってきてからのラストシーン周辺。物語の展開に片がついたあとになって、やっと情景美やユーモアを味わいとして持たせられるようになった。きれいなシーンだと思いつつ、映画の欠陥を改めて実感させられた。
ラッセル・クロウは外見的にはこの映画に合わなそうといったイメージとは関係なく、どんな役でも自分のものに出来る役者だということはよくわかった。だが、リドリー・スコットは、この手の味わいのある作品は撮れない監督だということも同時によくわかった。
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