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[コメント] 卒業(1967/米)

コメディの名を借りつつ、そのなかに宿るものの正体が見えない。(レビューは作品後半部分の展開に言及)
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







中流家庭とはいえ、日本のそれよりもはるかに上流の家庭で育った甘えん坊君。大学までひいてもらったレールがなくなったもので、人生について悩んでみたりした。悩んでみたところで、水中の中の潜水服からの音や視界のごとく、なーんにも感じないという感想が精一杯のところ。

両親の友人の年上マダムと情事を交わして、擦れた大人になったつもりの甘えん坊君は、今まで自分を甘えさせてくれた大人たちに逆らおうと、年上マダムの娘とくっつくことを思い立つ。(彼女を好きという感情よりも、逆らおうという感情のほうが先立っているようにしか私には感じられなかった。そのあとあとづけで本当に恋をしたのかどうかはうやむやだったが…)阻害されれば阻害されるほど燃えてしまう、それが愛だと勘違い気味に暴走し始める。

娘も娘のほうでこれも箱入り娘。婚約しているのに、強引に自分を奪いにくる彼の姿にまんざらでもない受け答えをする。彼に憧れたというよりは、奪われる自分を想像して悦にいっているだけのように思える。

これが「青春」だと言ってしまえば、ある意味そうなのかもしれない。後の時代の『アメリカン・ビューティー』に繋がるような冷笑的なコメディー。しかしコメディーを装いつつ、そのなかの視線にはかなり悪意がこもっているように感じた。(その意味で『アメリカン・ビューティー』のほうが清々しさを感じる。)そこがどうにも好きになれない。

しかし、有名な結婚式のシーンはある種の感慨を感じてしまった。それを好印象で受けとめるか、最後まで冷笑的に受けとめるかにかかわらず、あのシーンでの疾走感や刹那性にはどこか惹かれてしまうものがある。その意味では後世においてあのシーンだけが一人歩きしてしまったのは、必然的な現象であったと思う。監督や脚本家はそこまで意図していたのか非常に計りかねる。

アメリカン・ビューティー』には高得点をつけたが、基本的にはコメディーっぽく仕上げてしまえば、肝心な部分をうやむやにしても逃げきれてしまうような印象があって、その姿勢に誠実さを感じられないため私は低評価。でも疾走するところには弱いんだよなあ…

*本作、『卒業』という邦題は違うだろう、何かから卒業するのかと思ってしまう。実際は甘えからも卒業はしていない、「卒業」すべきものかどうかは別にして。『ピアニスト』のようなニュアンスで『卒業生』とするあたりが落ち着きどころと思うが。

(評価:★3)

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