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[コメント] ブルックリン(2015/アイルランド=英=カナダ)

ストーリー的には地味目でクラシカルな映画に見えますが、演出、カメラワーク等々一流のスタッフで製作されており、複雑で交錯する移民の歴史、そして何より女性の本質を論じる上で見どころが多い秀作となりました。
セント

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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時代は60年以上前の戦後の設定です。まだ移民といえばアイルランド、イタリアが幅を効かしている時代でしょうか。結構ハリウッドではこの系統の映画は多いです。

アメリカは移民の国です。あの自由の女神がまさにその象徴ですね。けれど我等日本人は結局のところあまりはっきり分かってないのではないか。アイルランド系の出世頭がケネディ家、またはイタリア系ではゴッドファーザーが著名ですね。もちろん東欧西欧系、中国系そしてヒスパニック系なる人々もいるのは分かってはいるが、その歴史をあまり知ることはない。

その意味では市井の一女性を主人公にしたこの映画は一見とても地味だが、なかなか丁寧に作られており、移民者の新天地での生活の困難さ等々、どのシーンをとっても見ごたえがありました。アメリカでさえこれなんだから、現代の不況ヨーロッパではどうなんだろうと現実感を深く推察されるところです。

結局この映画は最初から最後まで本来移民がテーマなんですが、後半になってから女性のしたたかさも描かれています。

あれほど静かに燃やし続けた恋も(結婚までしたのに)、アメリカでの生活の困難さと、アイルランド故郷での上位流社会への道が現実化するにつけ、自分に一途な夫を疎ましくさえ思ってしまう性悪な女の部分を描き出しています。この部分が鮮烈でした。

夫はといえば自分より背が低く、明らかに自分に惚れていることが分かっている。女は完全優位に立っているのであります。男でも女でも惚れ方で男女の決定権が定まります。惚れた弱みですね。

でも男も何となくそれを分かっていて、アイルランドに一時帰国する際、無理やり結婚届を出させたのでしょう。それは弱い立場の、ある意味男の精一杯の担保です。

でもその担保で女は最後に踏みとどまるのだから、紙一枚で人生は変わるものなんですね。彼女の甘い夢想の時間は終わりを告げます。

さて、現実が待ち続けるブルックリンの生活、彼らはこれからどうなってゆくのでしょう。それほど頭脳明晰とは思えない女性ですから、ケネディにはなれないでしょうね。普通に移民同志でささやかな人生を過ごしてゆくのでしょうか、、。

面白い映画でした。シアーシャ・ローナンを「つぐない」からずっと見続けていますが、随分大人の女性になってきました。少々貫禄も感じます。まだ20歳そこそこですが、もうあの清楚なシアーシャは戻って来そうもありません、、。

(評価:★4)

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