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[コメント] 死ぬまでにしたい10のこと(2003/カナダ=スペイン)

99%が一人称の映画。残りの1%が、彼女の視界に写るものと現実の世界との差異を、かすかに伝える。男が奏でるグラスハープの残響と共に。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







淡々としているので錯覚しがちだけれど、少なくとも客観的な映画ではない。観ている間は彼女と一緒に思い悩み、考え、孤独や諦念を味わう。この映画に写るものは、全てが彼女の視線を通して見、時に思い描いたものではないかと思う。意地の悪い見方かもしれないけど、ラストの「その後」は、あくまで間際の彼女の目の中の「私のいない未来」ではないだろうか。

それと言うのも、彼女が死を告知された後再び現実の世界に身を置きながらも、時折周りとは異質なものを見ている印象を伝えてくるからだ。(何を象徴しているのか結局わからなかったけど)意味ありげなグラスハープの男、目に写るものが実感を伴わないというニュアンスの独白、スーパーでのシーン、簾越しの「未来」。これらの要素が、あたかも彼女が周りとは微妙に違う「彼女の現実」を見ていることを、密かに意味付けている。まるで彼女が見えない殻の中に自らを置いているかのように。

終始淡々としている。しかし彼女が「淡々とできる」ということは、あえて心を乱すものを無意識に視界から排除してたからではないかと、ふと想像してみたりする。死ぬまでにすることは沢山ある。自分のために、後に残す愛する人たちのために。小さな思いの乱れで、すべきこともできずに崩れることを、どれだけ彼女は恐れていただろう。それゆえに、彼女は見るべきものしか見ていなかったと考えた方が、むしろ自然に思えてくる。「淡々としている」のではなく「淡々とせざるを得ない」彼女の姿に、息苦しいまでの切なさを覚える。

そして思いが比較的スムーズに運ぶ話の展開の傍らで、もしかしたら本当の現実は微妙に軌道を逸れてかもしれないし、残された人たちの本当の声はしっかり彼女の耳に届いていただろうかなどと、そんな懸念がフと頭を過ぎると、何とも胸苦しく複雑な心境になる。主観から外れた1%の余韻に気付かなければ、こんなことは思いもしなかっただろう。しかし、少なくとも彼女が周りの人間をどんな思いで愛していたか、そのことだけは確かに伝わっているだろうと思うことで、少しだけ救われた気になる。

(2005/04/10)

(評価:★4)

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