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[コメント] 祭りの準備(1975/日)

この、暗くて無茶苦茶な物語、を、ここまでバランス良く仕上げた黒木監督の実力はもの凄いものだと、正直感動出来ました。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 1970年半ばATG作品は、徐々に変質を遂げていった。丁度1970年にピークを迎えた学生運動から映画の方へと転向した人が多いためだとも言われるが、とにかく鬱屈した青春群像やエロとグロをこれでもか!と言うほど叩きつけるような作品が増えてしまった。

 そんな中でも本作は群を抜く暗さを持つ作品だろう。直接的な性交場面はないにせよ、げしげしその台詞は出てくるし、それでその結果も多様に登場。セックスをしてるんだか傷つけてるんだか分からないような描写がどんどん出てくるし、更に頭だけ別の世界に行ってしまってる人が何人も登場。更に常識では考えにくい家庭内ルールが横行と、物語のフローや設定見てるだけでも頭抱えたくなるような物語と言うことが分かる。

 しかし、本作で一番恐ろしいのは、これが脚本家中島丈博の“自伝”だという点。ここまでやっておいて、これ事実だったのかよ!前にマンガで「ぼくんち」読んだときにも「高知って凄いなあ」とか思ったもんだが、半分は誇張かと思ってた。しかし本作観て、あれは完全にこれと地続き。この映画のまんま更に20年くらい経過してたんだな。

 ここまでの物語をよくもまあ映画化しようと思ったもんだ。とは思うのだが、ところが本作は映画としてかなりしっかりした作りになってるのが面白いところ。無茶苦茶に暗く、重い設定でありながら、きちんと希望を持たせる物語に仕上げ、極力変な描写を排し、あくまで人間同士の問題にしたのが成功だろう。これを変に神秘的なものや、祟りみたいなものにしなかったお陰でリアルな悲惨さと、そこから生まれ出る希望が描けるようになっているのだ。逃げ出すことを正義として、そこに希望を見つけさせる過程の描き方が本当に上手い。晩年になって本当に美しい作品を作るようになった黒木監督の実力は、本作でもまざまざと見せつけられる。

 ちなみに本作が竹下景子の出世作となったのだが、以降清楚さで売ってた人の出世作がこれってのも面白い話だ。

(評価:★4)

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